2週間前に映画館でなくした 文庫本バッグが、
戻ってきた!
中には電子ブックを入れていた。
2週間前、モンパルナスの映画館を出て、ストライキで麻痺したパリを小1時間ほど歩き、家に着く直前、それを忘れてきた事に気が付いた。
映画館に電話しようにも、大手のチェーンでダイレクトに繋がる番号が存在しない。代表のお問い合わせセンターに電話すると、いかにも一時凌ぎのバイトでやっています という感じの学生風の男の子が出て、ハキハキと「そういったお問い合わせは、当社のサイトの専用ページにアクセスして、そこから要件メールを出してください」と言う。歯痒い。
件の専用ページというのは上手に隠してあって、クライアントの紛失物探しの熱意がまずここで試される。そこにたどり着くまでにギブアップすれば、ふるいに落とされたということだ。
なくしたオブジェの特徴、日にちと場所、観た映画のタイトルと上映時間、シート番号まで詳しく記載し、なんとかメールを送信した。翌日、誠に残念ながら見つかりませんでした という、切って貼ったような返事がとどいた。
けれども、ここはフランス。そうやすやすと鵜呑みにして諦めてはいけない。
だいたい、いくら紛失物が見つからない国、フランスとはいえ、日本語の電子ブックなど拾った人間が興味を持つとは思えない。
ストライキがようやく終結したので、メトロに乗って映画館に足を運んだ。チケット売り場で暇そうに本を読んでいたのは、2週間前と同じ若い女性だった。いい兆しだ。
事情を説明すると、「それならなんとなく覚えがあるわ」と、カウンターの下をごそごそ探って、ポンと私の文庫本バッグを出してきた。
2週間分とは思えない埃をかぶっていたけれど、なにせ見つかったのだから良しとしよう。