Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Les conquêtes amoureuses

木曜から続いた4連休。今日は最後の日曜日。

f:id:Mihoy:20200525064123j:image

約束の12時半に、夫の友人ヴィージルはワインボトルを片手に我が家にやって来た。パリのど真ん中、サンシュルピス教会の目と鼻の先に住んでいる彼だけれど、サングラスをTシャツの首元に引っ掛けて、まるでヴァカンス帰りのようにいい具合に日焼けしている。ロックダウン中にバルコニーで日光浴していた輩の一人だ。しばらく会わなかったうちに心持ち体重が増えたかな?と思うけれど、きっと先方も私達を見てそう思ったに違いない。

サリュー!と挨拶を交わし、儀式のように玄関の消毒ジェルをワンプッシュ。もちろん握手もお決まりのビズも無し。フランス式の挨拶に慣れてしまったので物足りない気もするが、日本人同士の挨拶のようでもある。

ベランダに出した長方形のテーブルの一辺に1人の配分で着席する。これで一応適当な距離が保てるといった訳。

 

ヴィージルは、屈託のない笑顔と巧みな話術で場を盛り上げるサンパティックな (sympathique /  好感の持てる) 人だ。ヒューマニストという言葉がピッタリ来る人で、老若男女どこでも誰とでも語り合ってはすぐ友達になってしまう。だから、私たちの周りにはちょっと居ないような面白いタイプの友達がたくさん居る。

そんなヴィージルはセリバテール (célibataire /独身) で、ちょうどパンデミック騒ぎが始まる前にイギリス人のコピンヌ( copine / 彼女) と別れてしまった。心傷気味なのかと思えば、そんなことはなくサッパリしている。本音なのか強がりなのか、"De toute façon, je n'étais pas vraiment amoureux" (どちらにしても、そんなに惚れてた訳じゃないんだ) とうそぶく。

ロックダウン中は、通りを挟んで向かいの窓の女性とよく目が合ったので、暇であるし、画用紙に電話番号でも書いて示そうか本気で迷ったと話して笑わせてくれた。もし踏み切っていたら、今頃、いかにもパリらしい恋物語が始まっていたかも知れない。

 

そして、ロックダウン解除直後の先週の木曜は、すでに同じカルチエ(界隈)の80歳の友人にディナーに招かれていたというから驚いた。行きつけのたばこ屋で知り合ったご近所友達だと言う。いかにもヴィージルらしい。ゲイでアーティストなパピー (おじいちゃん) で、話が面白いのだとか。このご時世で、その年齢で、果敢に若い人を食事に招待するあたり、怖いもの知らずのパリのゲイのアーティストでもなければまず出来ないだろうと妙に納得する。

その80歳の友人と、彼の同年代の女友達と、その孫の若い女性、それからヴィージルというちぐはぐな4人の組み合わせでテーブルを囲んだのだそうだ。想像しただけで面白いシチュエーションだ。初対面の若い女性はなかなかヴィージルの好みであったらしい。台所に食器を下げるタイミングに2人きりになり、さっそく口説いたところ、付き合っている人がいると返事が返ってきた。がっかりしても、そこで簡単に引かないのがパリジャン。Et tu es amoureuse de lui ? (で、その彼に惚れてるの?) と聞いたところ、相手はハッキリ「ノン」と即答するではないか。それならば、ここで僕達の間に新しい恋が芽生える隙間がありそうだ!というのが、目下の彼の状況だ。

話の締めくくりに、タバコの煙を燻らせながら遠い目をして「ま、こんな僕も、いつかはこの人だという相手を見つけて、子供を持つことだってあるかも知れないな」とのたまう。男の人の発言だなぁとつくづく思った。私達の年齢で「いつか」だなんてのんびり言っていられるのだから。そういう具合だから男の子は女の子に比べて心身共に成長がゆっくりなのだろうと、同じテーブルについていた息子を横目にしながら思った。

とにもかくにも、ロックダウン中も、解除直後も、ヴィージルのハート狩りは進行形。そんな話を面白おかしく話してくれるので、楽しいランチのひと時だった。

 

この国に暮らしていると、「男女一対が当たり前」という考え方が文化の根底にあると感じる。カップル文化と呼ばれるたりもするけれど。女同士で旅行したり、男同士で食事したりという機会が少ない。異性のパートナーがいないと肩身の狭い思いをする事が多い。そして、年齢を経ても、恋人ができたり、再婚したり、付いたり離れたり忙しい。

フランスが恋愛王国のように思われがちなのは、パリが恋人達に似合うロマンチックな景観の街だからというだけではなく、常に異性を追うのが当然という空気が漂っているからだろう。街には異性を見る目が光っている。口説く、攻める、かわす、受ける。そんなシーンをよく見かける。そして少しでも気に入ると、相手のことを好きだと思う前に付き合い始める男女、同棲し始めるカップルがとても多い。好きかどうか、恋愛に発展するかどうかは、後になれば分かるだろう といった非常に現実的なスタンスだ。だから、みんなハンターになるのである。取り敢えず動くものは捕まえて、手の内にした獲物の正体を確かめるのは後回しといった傾向。結果的には、逆にそれがロマンチックに見えてしまうから面白いものだ。