Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

C’est mon tour

相変わらずの騒動のお陰でオシャレをして出かけたり人に会うことも少なく、毎日同じような服ばかり着ている。

 

f:id:Mihoy:20210113191703j:image

 

時々しか外出しないからこそ、外に出る時はファッションショーの表舞台に出るのだと思うことにしようかしら。

 

日々のファッションといえば、以前メトロで毎朝のように見かけた女性的な男性の通勤姿を思い出す。

チェック柄の腰の細いタイトなハーフコートに身を包み、足元は先の細い編み上げブーツ。肩くらいまでありそうな焦げ茶の髪は、たいてい高くまとめてポニーテールにしていたけれど、時々は無造作なシニョンに結っていることもあった。コートの細い袖から突然大輪のワイルドな花が咲いたように飛び出しているその男性的な手には、いつも小さすぎるくらい華奢なハンドバッグを提げていたっけ。

体はスレンダーだけれど骨太な印象で、細面の輪郭も顎付きはしっかりしている。どちらかというと長身だけれど、決してヒョロリとしたタイプではない。丸みが排除された男性的な体つきであるのに、仕草だってことさらしっとりしている訳でもないのに、選ぶファッションとその身と心の軽やかさが非常に女性的なのだ。組み合わせの妙だなと感心しながら、飽きずにチラチラ盗み見たものだ。決して派手さはないけれど何故か目を引く。

自分の性別や体付きに気を囚われず、自分の内面を表すものをよく選んで身につけている人だ。それが不思議な具合によく似合っている。防寒のためとか体を隠すために服を着るのではなく、ファッションこそ自分を表す日常的な表現手段なのだという事を今一度思い出させてくれる。

電車が駅に停車すると、まるで「出番です」とでも言われたようにすくっとストラポンタン (跳ね上がり椅子) から立ち上がり、ドアがパーッと開くと競馬場の雌馬がコースに飛び出すように華やかにプラットホームに踊り出る。先を急ぐラッシュアワーの競走馬達の中でも一際目立つ。コンクリートの上にカツカツとブーツの踵を響かせて軽やかに進む姿は、腰こそくねらせてはいないもののまるでファッションショーだ。何食わぬ顔のパリジャンパリジェンヌ達の視線を密かに集める。私も、人混みの向こうにその姿が見えなくなるまで彼のショーを見守ったものだ。

 

普段の私は1日の終わりにシャワーを浴びるのが常だけれど、今朝は出かける前にシャワーを浴び、瓶の底に僅かに残っている昔の香水をスカートの裾に吹きかけ、靴を磨き、椅子に登って洋服棚の一番上に眠っていたセピア色の帽子を降ろし、お終いにマスクの色に合うスカーフを見繕った。準備万端。さて、息子を歯列矯正医のマダム・フォーニエのところに連れて行きましょうか。