Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Mon premier jour du printemps

パリは快晴。

 

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今日から3月。

息子の2週間の冬休みが明けた。

 

週末は何やらドタバタ忙しく、月曜の今朝もやはりあれこれ忙しく、昼食の時間になって始めて数日ぶりにラジオを点けた。

サルコジ元大統領に禁錮3年の有罪判決が下ったというニュースが流れる。氏の汚職疑惑の件だけれど、重罰だ。政治に頓着のない私とは言え、さすがにこのスキャンダルには目を見張った。いや、正確には、耳をそば立てた。

外出制限だロックダウンだと地味に大人しく暮らす事を余儀なくされている毎日だけれど、一方のメディアは相変わらず、あるいはもしかしたらいつもより輪をかけてびっくりニュースが日々絶えない。ミュゼもシネマも閉鎖中のこの国で、ちょっとした余興のつもりなのかしら?と思って苦笑い。私達は今、吹き溜まりのような時代にいるのかも知れない。デトックス効果で、この後はスッキリとリセットされた時代が来るといいなと思う。

 

ラジオを聞きながらテーブルを挟んで向かい合って座り、ニュースキャスターの一語一句を逃すまいと注意深く耳を澄ませる夫に今日ばかりは私も便乗し、静々とイカ墨入りスパゲッティーを口に運ぶ。鍋に海塩をたっぷり入れて黒々としたスパゲッティーをしっかりアルデンテに茹で、一掴みの青々としたフレッシュロケットとオリーブオイルでさっと和え、仕上げに鱒の紅く透き通った卵を散らした。簡単で美味しいのでよく作る。ご飯係が面倒くさい時のメニュー。

 

ニュースがひと段落したところで夫が「まあ、当然控訴するだろうよ」とコメントを挟んだ。「フランスの裁判の第一審ってのは割といい加減なもんで、大抵の場所は負けるんだ。」サルコジ氏の身に立っての言。美しき青眼のカーラはご心痛に違いない。夫によると、概して第一審は調査が甘いのだそうだ。いかにもフランスらしい。なかなか全力で仕事をしない。

どちらにしても相手がお金持ちの元大統領とくれば、取り敢えず一番厳しい判決を下しておいて、上訴ウェルカム、再審再審、毎度あり〜と両手を擦っているんじゃないの?と茶化すと苦笑していた。真偽のほどが如何にというより、一種のゲームのようなものなのかも知れない。大金が絡むとマネーゲームだ。

そもそも、人間社会にとって何が本当に「正しい」かなんて極めて微妙だと思う。ソクラテスやマリーアントワネットへの死刑判決は、果たして妥当だったのか?正しさにも流行り廃りがあるから面白い。(当事者でさえなければ!)

 

先日、やはりラジオの報道で誰かが言っていた。「 現実 (réalité) は一つ。でも真実 (vérité) は複数存在し得る。」きっとその通りだと思った。人の数だけ存在したっておかしくない。

 

思えば、私がフランスに暮らし始めてから現在4人目の大統領だ。親日家でエレガント、でもちょっと押しの弱いシラク。氏と極右派のルペンの2002年の決戦投票は、留学生だった私も当時固唾を呑んで見守った。お次は、フランスに似合わず硬派で実質主義のサルコジ。そこから一変して、キャラクター性はあるけれど政治的存在感の薄いオーランド。そして、最も若手で経験の浅いマクロンが、ハズレ籤を引いたようなタイミングでこのパンデミー時代に就任している訳だ。

明るい昼間の食卓で、ラジオから引き続き流れるニュースから意識が離れて、サルコジ氏が大統領だった時期の個人的な思い出があれこれ頭を過った。息子が生まれたのもその時期だ。彼の誕生を機に私の人生は大きく変わったものだ。

 

 

さて、

毎年3月1日は花を飾ることにしている。もう歳を取らない母の誕生日。暦を無視して私はこの日を一番最初の春の日と決めている。私のささやかな花祭りの日。

 

今日の日を目標に、ある書き物を仕上げようと思っていた。ところが実際のところは、ようやくプランを練り上げた程度。気が急くけれど、もっとずっと気長に行かなくてはならないという事だろう。息子からはまだ手が離せない。他のことは1日一粒の要領でしか積み重ねられないけれど、それを受け入れなくては。コツコツが苦手な私にとっていい修行だ。

逆に、この日々の記録は結局休もうとしても休めなかった。判を押したような単調な毎日を送っていても、「日々のうたかた」がたくさん浮かぶ。それを忘れてしまいたくない。私は時間の使い方が下手なのだ。こうして小さな事に気を取られているうちにいつも時間が経つ。そんな事も受け入れなくてはならないのだろう。

 

息子との会話からインスピレーションを得て、子供用のとってもヘンテコリンな小さなお話だけはひとつ出来た。当の息子に披露してみようかな。きっと笑って聞いてくれるだろう。それとも彼がもっと大きくなるまで、寝かせておこうかな。こんなこと話した日々があったね、と振り返る日まで。