Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Musée pour les gourmandes

デートの日。

 

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お相手はソニア。

場所はボンマルシェのエピスリー (食品館)。美味しくて美しい食料品の殿堂だ。

相変わらず、コロナの煽りで現在デパートやショッピングセンターは閉鎖中。でも、この19世紀の古き良き時代の香りを残す上品なボンマルシェ食品館だけは開店している。そこにソニアが目を付けた。Excellente idée !

 

もう少し経緯を話すと、それはこうだ。何もしていないのにとても忙しく、うまく進まないことも幾つかあって、ジレンマが続いたここ数日、ハーッとため息をついていたらチーンと携帯が鳴って、見るとソニアだった。今週一緒にエピスリーに行かない?と、赤いハートを添えたメッセージ。思わぬ助け舟だ。

偶然ではないと思う。こういう絶妙のタイミングで楽しい提案をしてくれる友は貴重なのだ。私が知らず知らず空気中に発していた「ああ気分転換したい!」のサインを、虫の知らせで受け取ったのだろう。ソニアに感謝。

 

さて、私達のショッピングは、いわゆる普通のそれとは一線を画す。どちらかと言うと冷やかしに行くのだ。いわばノン・ショッピング。基本的には何にも買わない。できるだけ買わない。これは遊びのルールのようなもの。購買欲を刺激されてもその手に易々とは乗らない。小さな商店ではなく大手のデパートであるから、そんな冷やかしも可能なのだ。購入することではなく、目の保養と想像力の刺激、話題集め、手ぶらの身軽さのほうに重きを置く。あれこれ眺めては感想を話しながら周る。これがなかなか楽しい。

 

買わないこと、手に入れないことの楽しさというのがあると思う。なにも財布が空っぽで負け惜しみを言っている訳でも (そういうことも時々あるけれど)、消費生活はいけないとモラルを語っている訳でもない。お遊びとして楽しみたいだけ。

カポーティの小説「ティファニーで朝食を」の主人公ホリーも、それに似た遊びをしていたように思う。所有せずに自由に想像するという遊び。

もしも本気であれこれ買い物したいなら一人で来るか、週末にでも家族で車で出直せばよい。今日の女同士のデートは目的が違うのだ。

 

とにかく、老舗デパートはボンマルシェのエピスリーに、私達はミュゼに鑑賞に行く気分で出かけた。仲の良い女の子が2人も揃えば、そのお喋りの才能を発揮してテンションを自在に上げられる。まるで遊園地にでもいるみたいに、キャッキャとはしゃいで廻るのだ。

 

ボンマルシェの食品館は、フランスの各地方の食べもののほか、棚別に世界各国の食材が陳列されている。イタリア、イギリス、カナダ、アメリカ、中東、日本や韓国の棚もある。まるで胃袋のための万国博覧会。ディズニーランドの It's a small world の食いしん坊版なのである。

 

個人的には、最も食欲を誘いかつ印象の明るいイタリアの棚が一番気に入った。味や食感を想像したり、原材料を読んでヒントを得たり、なんちゃってイタリア語をいかにもそれらしく大声で発音してみたり、パッケージの絵柄やデザインの美しさに見入ったり。

 

中東の棚で手に取った瓶詰めソースには、fenugrec というスパイス名が記載されていた。以前から気になってはいたけれど、まだ試したことのない未知のスパイスだ。ソニアは生粋のパリジェンヌであるけれど、ご両親がアルジェリア出身なのでアラビア語も嗜む。その上お料理上手だ。このスパイス知ってる?と訊くと、フヌグレックは植物性エストロゲンを含むから、マグレブの女性はこの粉をオイルに混ぜて胸に擦り込んで大きくするのよ!と教えてくれた。

「じゃあ、私もこのソースを擦り込んでみようかしら!」

「アトンション!それは唐辛子入りよ!」

笑い合った。

 

フランスは今空前の柚子ブームのようで、シロップやドリンク、調味料のみならず、お菓子やマスタードにまで頻繁に Yuzu の文字を目にした。ウォーリーを探せならぬ、ユズを探せごっこが楽しめる。日本の食材がじわじわとフランスに浸透し始めている昨今だ。

綺麗好きで段取りが良く、お片付けマニアのソニアは、気が付くと目に付いた陳列品の列の乱れを無意識に直したりしている。片付け癖が治らない。ママンの職業病だ、重症のワーカホリックだと、またも笑い合った。

 

私達はしなやかなエスプリの持ち主 ( ? ) だから、場合によっては遊びのルールに例外を認める。つまり、買い物しても良いということにする。

たとえば、ヴィジットの最後にささやかな品物を選んで、その日の記念に買って帰ることもある。ミュゼの出口でハットピン一個とかポストカードを一枚買うような気分で。あるいは、鑑賞した品々の中から本日の一等賞を決め、少し値が張っても表彰する気持ちで購入することだって可能だ。芸術作品を一つ入手する気分で。

 

結局私たちは、今日の「何にも買わないお買い物ごっこ」のちょっとした記念に、ソニアはお洒落なチューブ入りマスタードを、私は子供時代の思い出のフォションのアップルティーを選出して買って帰った。マドレーヌ広場にあったあの立派な店構えのフォションは去年潰れてしまったけれど、懐かしのアップルティーはこんな所で命拾いしていた。

他にも欲しいものは色々あったけれど、また遊びに来ようねと私達は頷き合った。次回は、イタリアの棚のあの気になるお菓子を買ってみようかしらと今から夢見ている。

それにしても楽しいひと時だった。

 

人生を遊ぼう!

加勢してくれる仲間が1人見付かれば、大概のことは一緒に笑い飛ばせる。

いろんな「ごっこ」をして遊ぶのだ。

箸が転がっても笑い転げる少女時代は、実は一生続くのだと思う。