Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Cake

夫の買い物 其の一

 

f:id:Mihoy:20210412181153j:image

 

最近夫はウォーキングをするようになった。

それまでは驚くほど動かない人だったけれど、一度始めるとなると徹底していて、今度は逆に随分な距離をすごい速さでひたすら歩く。耳にはイヤホンをはめ、ニュースやポッドキャストを聞きながら。頭を空にするとかボーッとする事が苦手な人だけれど、こうすれば歩くと同時にあらゆる情報が得られて時間のムダにはならない。

ウォーキングのついでに帰りにバゲットを買ってきてと頼むと、それはできないときっぱり断られる。汗だくになるから買い物はムリだとのたまう。スーパーに入れと言うのならまだしも、通りがかりのブーランジェリーに一歩入るくらいいいじゃないのと思うけれど、どうやらそれは彼のポリシーに反するようだ。なーんだ、面倒くさい人!

せめてもう少しからかってみようと思い、汗だくになる前に買ったら?と提案すると、そんなもの振り回して歩けるもんか!と返ってくる。案の定だ。

俺は10㎞は歩くんだぜ、そんなもん持ったら邪魔でしょうがない。

はいはい、そうですか。

ぶんぶん振り回してクタクタになったバゲッドを片手に戻ってくる夫の姿を想像する。確かに、バゲットはかまどから直送、パリパリのままアンタクト (無傷) であって欲しい。

しかしここで引き下がっては惜しいと思い、どうせなら体力を持て余している運動嫌いの息子も一緒に連れて行ったらどうかと提案すると、夫が口を開く前に息子の方がすぐさま抗議。瞬く間に却下された。確かに現実味のない案だ。黙ってひたすらズンズン進むパパと、途中で疲れて泣きべそをかく息子の姿がありありと目に浮かぶ。運動不足解消どころか、2人揃って不機嫌になって戻ってくるだろう。2人の速度は相容れない。あーあ、面倒くさい人たち!

 

さて、昨日もウォーキングに出た夫。帰ってきたと思ったら、なんと手にバゲット2本とケーキの箱まで持っている。一体何が起こったのかと尋ねると、コンクリートの上を張り切って長時間歩き過ぎて足の裏が痛くなったのだとおっしゃる。見ると底の薄いスニーカーを履いている。ニュースを聞きながら家を出て履き間違えたようだ。復路はスピードを落としたので、ここのところ気温がすこぶる低いこともあって汗が引き、今日はブーランジェリーに寄ったとのこと。

失ったカロリーはすぐさまケーキで挽回するのねと思うと可笑しかったけれど、ここは敢えて何も言わない。せっかくポリシーを曲げてめでたく買い物するに至ったのだから。

 

箱の中を覗くとケーキが4つ入っていた。お馴染みのエクレール (エクレア) とかパリブレストとか。そのなかの見慣れない一つ、丸くて赤くて、フランボワーズソースで全身をすっかりコーティングされた赤ずきんちゃんのような艶やかなケーキを指差して、これはなあに?と聞くと、Tokyo と答えが返ってきた。日の丸のイメージだろうか。

思うように旅行ができないご時世にあって、パティシエの想像の旅への招待状だ。そのうちガラスケースには、黄色いチーズを使った Amsterdam とか、高層ビルの形をした Manhattan とか、和洋折衷の Shanghai なんてのが並ぶのかな?そうしたら、夫は不屈のポリシーをあっさり撤回してきっと毎回立ち寄るのに違いない。