Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Le goût de tuiles

思い出のチュイル

 

f:id:Mihoy:20210607013314j:image

 

金曜の夕方は、息子を連れて図書館に行った。

ついでに、その近くに住む同郷の友、ユキさんに久々に電話してみることにした。ちょうど彼女のテレワークが終わる時間帯。よく晴れて気持ちの良い夕方なので、息子がマンガの棚で長居する間、外のベンチでアフターワークのお喋りに誘おうと思った。

6月のパリは夜は10時まで明るい。仕事の後だって、まだたっぷり遊べるお得な季節なのだ。

 

電話を受けて早速アパルトマンから降りて来た彼女は、耳に大粒のパールのピアスが光っていた。薄らとお化粧もして、普段よりもお洒落している。ちょうど誰かと会いたかったの!と嬉々として、表情も晴れやか。聞くと、今日が誕生日だと言うではないか。

ベンチでお喋りプランを返上して、一緒に近くのカフェに足を運んだ。先月にカフェやレストランのテラスが数ヶ月振りに解禁になったというのに、考えてみたらまだ一度も利用していなかった。良い皮切りのタイミングだ。

 

カフェの隣にあった計り売りの紅茶専門店でお菓子を売っていたので、バースデーケーキの代わりにチュイルクッキーとショコラを買い、テラスでデミタスを啜りながらそれを一緒に頬張った。フランスのカフェは、こういう類の持ち込みに対してうるさいことを言わない。特にテラスは極めて気楽なのだ。

 

香ばしいアーモンドの乗った薄焼きのチュイルは、私が子供の頃、母が時々作ってくれたおやつの一つだ。そしてこれまた偶然、ユキさんにとっても同じような思い出のお菓子だと言う。お互いの子供時代の話に花を咲かせながら、懐かしのママンの味を愉しんだ。

 

チュイルというのはフランス語で「瓦」を意味する。よくよく思い返すと、子供時代に母にもそう教わった朧げな記憶がある。西洋版「瓦せんべい」といった訳だ。

異国の味に好奇心旺盛だった母は、雑誌を切り取ったり本を紐解いたりして、思えば様々な国の料理を作ってくれたものだ。ブラマンジェ、クレープシュゼット、ババロア、グーラッシュ、ビーフストロガノフ、パエリヤ、カポナータ、エトセトラ、エトセトラ。。。私の心がいつの頃からか海の外に向いていたのも、そんな母の楽しい「仕掛け」が日常的にあったからかも知れない と、この頃になって思う。

 

それにしても、誕生日といいチュイルといい、タイミングの良い偶然が重なった。勘の冴えている日というのがあるものだ。

わざわざ待ち合わせなんてしなくても、声をかければすぐに会える気の合う友が近くにいるのは、なんてラッキーなことだろう。幸福な子供時代を過ごしたというのは、なんて幸せなことだろう。そんな事を思ったカフェのひと時だった。