Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Notre soirée et la loi

土曜のソワレの覚え書き


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ディナーに招いたソニアの一行は、約束の19時半を少し過ぎた頃、賑やかにやって来た。

食事に呼ばれたら、ピッタリの時間には訪問しないのがフランス人の常。しきたりのようなもの。それにすっかり慣れてしまうと、稀にちょうどの時間にドアの呼び鈴が鳴ると、すっかり慌てたり、まだ準備が終わっていなかったりするものだ。

まあもっとも、要領の悪い私は、時間を過ぎた頃に来客があっても、支度が完了していないことが時々ある。その辺りはご愛嬌だ。実は土曜のソワレも、テーブルクロスのアイロン掛けがタイムアウトで間に合わなかった。

これは私だけに限った事ではない。招かれた先で準備を手伝った事は少なからずある。肩肘張らないのがフレンチスタイルなのだ。

 

ソニアは、裾がヒラヒラで、深いデコルテの入った黒いワンピース姿で現れた。いつもながらシックでカッコいい女性だ。パートナーのマジッドもお揃いの黒で決めている。

到着するなり、大きな籐のバッグから、私用にグリーンの鉢植え、紅茶のアソーティメントボックス、息子へのお土産、オリエンタルデザートの詰め合わせパック、夫に珍しいビールの大瓶、ペリエと林檎ジュースの瓶を、次から次へと取り出しては手渡す。まるでメアリーポピンズの鞄だ。手ぶらで来るようにと言ったのに、そこのところはちっとも聞く耳を持たない。気前の良い夫婦だ。

 

さて、大人4人、子供4人、総勢8人のソワレ。

まずは子供達がテーブルについて食事を済ませ、お次に部屋を移動して、21時から始まるお楽しみのエンターテイメント番組、Fort Boyard 観賞というプランを用意した。23時過ぎまで続く長編番組だから、お終いまで見せてもらえるのは夏休みの特典だ。

 

子供達の食事は、まずフルーツを前菜に、次にお赤飯、古代米とキノア入りグリンピースご飯、チキングリル、パプリカ(赤ピーマン)と玉ねぎのラタトゥイユ風をワンディッシュに盛り付けた。

見慣れないお赤飯、ウケるかな?キノアは嫌煙されるかな?と様子を見ていると、なんとも頼もしい食べっぷり。

行儀の良い彼らは自分からお代わりをねだったりはしないけれど、「いかが?」と訊くと「大人の分は残っているの?」と遠慮がちに訊ね、「それじゃ、もう少し頂きます!」と次々にお皿を差し出した。口々にセ・トレ ボーンを連発しながら完食。苦手だと言っていたパプリカまで、これはおいしい!と残らず平らげた。台所人冥利に尽きるとはこの事。嬉しい。

 

子供達の後は、ソファーでアペリティフを摘みながら待機していた私たちがテーブルを囲む。大人は果物の代わりに前菜はサラダ、チキンの代わりに、メインはマグロステーキを頂く。付け合わせは子供達と同じライスと、得意のお手軽野菜グリルを供した。普段肉をあまり食さないソニアの口にも合ったようだ。彼女はキリリとした白が好きなことを知っていたので、ワインはよく冷やしたリースリングを合わせてみた。

知り合ってから時間が経つにつれ、敢えて聞かずとも相手の好みが分かるようになってくる。そんなところも友達付き合いの醍醐味だ。

 

合間を縫ってキッチンで切り盛りしていると、ソニアがすかさず手を貸しに来てくれる。

お喋りの間、私は盛り付けの手を止めて布巾でその手を拭った。それを目の前にかざし、パンパンと振って二つ折りにしていると、なんの合図のつもりでもないのに反射的にソニアの目が光った。相変わらず口はお喋りをしながらも、彼女の手は無意識に布巾を受け取って、体は咄嗟に拭くべき食器を探し始めている。誰もゲストに皿拭きなど頼んでいないのに!拭くべきものなんてないのに!

まるで、マタドールの振りかざす赤い布に反応する闘牛みたいだ。ママンの職業病!2人して吹き出し、大笑いした。

キッチンは私たちのオフィスのようなもの。好きな場所だけれど、ここに居るとつい職業病が出るから、あっちに移動して話そうと言ってテーブルに戻った。

 

食後はソファーで寛ぎながら、夫が買ってきた その名も Tokyo という名の赤いパティスリーをつつく。子供達も随分と大きくなったものだね という話になった。以前はディナーの席でも常に目を配らなくてはなかったけれど、今はもう別の部屋に始終ほったらかしておける。テーブルや家具の鋭角な四隅に、ゴム製のプロテクターを付けてアクシデントを避ける時代なんてのもあった。あれはインテリア的にカッコ悪かったね と笑い合った。家の中さえ危険がいっぱいだった。

 

どこにも行かない7月。パリに居残り組同士のソワレは、日付が変わるまで賑やかに続いた。

 

ところで、その同じ晩に、国会ではでワクチンパスポート法案の詳細が議論されていた。

ソワレの翌朝、ソニアからメルシーのSMSが届く。ついでに、いち早くキャッチした法案の内容まで盛り込まれていた。

まず、前言撤回の形で、子供にはパスポート提示(ワクチン接種)が要求されない。ワクチン無摂取でも、飲食店のテラスとショッピングセンターはアクセスが認められることになった。その他の対処も、ものによっては適用が9月からに変更された。

美術館、映画館、遊園地には、私やソニアはもう21日から既に入れないけれど、「カフェのテラスで一杯は当面は可能ね!」と喜び合った。子供がパスポート免除になったのにも胸を撫で下ろした。

9月の新学期に状況が変わったら、また対策が厳しくなることが予想されるけれど、取り敢えずは安堵。