朝の光景
朝のバゲッドを買いに出た。
空は快晴。途中の坂の上にある花壇に朝日が当たって、秋の花々が美しい。足を止めて写真を撮っていると、後ろからゆっくり坂道を登ってきたマダムに声をかけられた。
C'est vrai que c'est jolies...! 「ほんと、綺麗よね!」
彼女もしばし足を止め、目を細めて花壇を眺める。白髪に近い豊かなブロンドで、首に巻いたスカーフを横に結えた小粋なマダムだ。
立ち止まって写真を撮っていると、時々こうして話しかけられる。相手は、ある程度年齢を重ねた落ち着いた世代の人が多い。たまに小さな子供の時もある。
前者は大抵ゆっくり歩くので、話しかける余裕があり、後者は好奇心の塊で、その事を隠す年齢にまだ達していない。横にいる人に声をかけるのに躊躇のない、2つのかけ離れた世代。その間の年齢層は、足早に少しすましている。自分も含めて。
高校時代の友人が、「ナンパされたかったら、ゆっくり歩くに限る」と言って笑わせてくれた日のことをふと思い出したりした。ごもっともだ。
アネモネが見事ですね、コスモスは秋らしくていいですね、などとマダムとひと言ふた言交わし、ボンジュルネ!と挨拶して別れた。良い一日を!
きれいなものを一緒に愛でるという「共感」は、心をほっくりさせる。こんなに簡単な事で小さな「和」が得られるのだから、世の中って悪くない。逆に言うと、些細な「美」や「和」を摘んで歩けるくらいの心の余裕は、いかなる時も持っておきたいなぁと思う。
よい朝のスタートとなった。
今日から息子の新学期。
何を訊ねても、ウイとノンとセテビアン (c'était bien よかったよ) くらいしか言わない息子。私が子供の頃は、学校から帰ると関切って母に話したものだけれど。
久々の学校は、どうだったのかしら?
私にとって息子の学校は、こんな快晴の日だって霧のベールに包まれているのだ。