イチジク賛歌
今年も、イチジク。
なだらかな曲線を描く紫の実は、教会に祀られた聖母マリアさまの石像の乳房のよう。
少し尖って形よく、品がある。
店先でその姿を見かける度に、心を掴まれ、密かにときめく。指先でそっと選らび取り、慎重に紙袋の底に納め、大事に連れ帰る。硬い林檎や、弾力のあるオレンジのように、無造作に籠に放り込んではいけない。デリケートな実が傷んでしまうもの。
家に着き、そっと袋から取り出し、その無傷な姿にほっとする。そう、神聖なるマリアさまは、母にして処女なのだ。
蛇口の水はささやく程度の水量で、秋雨が優しく撫でるように洗う。
それから、半分に割って皿に並べる。冷蔵庫にレモンを見付けたなら、嬉々として絞る。こうすると、晩夏の思い出に輪郭が出るのだ。
赤い流星をびっしり詰め込んだような姿の種と、ねっとりとジャムのような果肉がとても幸せ。これは宝石。
夏の日々はすでに遠い。残された結晶を、ありがたく頂こう。