Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Itinéraire

今年も、星の朝のセゾンがやって来た。

 

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まだ太陽の出ない8時前。

息子を学校まで送る。空は紺色。表は黄色い街灯が煌々と灯っている。

昨晩の雨は降り止んで、洗い立ての世界はまだ湿った匂いがする。久々に澄んだ冷たい空気。肺一杯に吸い込む。

 

門の前で頬にビズをして、「いってらっしゃい」を言って別れる。これくらいの年齢になると、そろそろ、人前でママンにビズしてもらうのを嫌がる男の子もいるようだけれど、我が息子は全然お構いなし。甲高い声で「行ってきます」。門の向こうに消えていく。

 

急ぎ足の行きとは違い、帰りは1人でゆっくりと、好きな道を選んで帰る。なるべく景色のよい道のりを選ぶ。太陽はまだ寝床から出ない。青く仄暗い「朝のたそがれ時」だ。

 

むかし修道院だった敷地を横切る。その手入れの行き届いた庭の、冷たい雨粒を載せたバラを愛でる。この場所には、アーチ型の柱に支えられた長い回廊がある。かつての修道士たちは、この回廊をそぞろ歩いては朝夕の瞑想を行ったのだろうか。今では、まだ暗い庭を、通勤路に使っている人達が足早に通り過ぎて行く。

 

それから、駅前のマルシェの前を通る。この時間帯はメトロの入り口から忙しく出たり入ったりする人影ばかりで、まだ買い物客の姿は見当たらない。それでも、明かりのたくさん灯ったスタンドには、カボチャや葡萄が行儀よく並び、誰かに選んでもらえるのを気長に待っている。

 

駅の斜向かいのブーランジェリーで焼きたてのバゲットを一本買い、小脇に抱えて歩く。これは今夜の夕食に。

 

またしばらく歩いて、教会の横の緩やかに長い坂道を登る。キツからず、楽でもなく、ちょうどよい運動になる。その後、左に曲がって公園を横切るのがお決まりのコースだ。

景色はすっかり秋。前を歩いていた小さな男の子が、不意に立ち止まって大きな枯れ葉を拾った。「これ、先生にあげようっと。」微笑ましい。

 

家に近付くと、同じアパルトマンの上の階に住むロマンとすれ違った。9月から高校生だ。軽く会釈してボンジュール。以前に比べて声のトーンが低調になり、挨拶の仕方もすっかり男らしくなった。我が息子にも、いつかそんな日が来るのだろうと想像する。

 

またしばらく進むと、今度は友人キャロリーヌの姿を前方に認める。トレンチコートの前をしっかり閉め、肩から鞄を提げ、耳に当てた携帯に何やら囁いている。はにかむような笑みを浮かべているところを見ると、恋人と朝のお喋りだろうか。例によって、単発の仕事に出かける様子。邪魔はせず、「サリュー!」と手を振ってすれ違う。

 

アパルトマンの目の前の横断歩道では、子供を学校に送るイザベルとすれ違った。遅刻気味なのだろう。小走りなので、「ボンジュルネ!」とだけ言って、あとは目配せ。

 

朝の民族大移動。

逆行して歩く私は、空がようやく白々とする頃家にたどり着いた。台所で家族の朝食の後片付けを済ませたら、それからが私の朝ごはんの時間。東向きの窓からちょうど朝日が射す頃、温かいお茶を淹れ、今朝も元気に1日のスタートを切るのだ。