Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

LUTETIA, 450 ans après

気が付けばもう2月。

 

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相変わらずパリの空は毎日グレーだ。

 

土曜日。息子の進路を選択すべく学校見学に行く予定だったのに、肝心の息子が風邪をひいて寝込んでしまった。

彼はこの冬風邪をひいてばかりいる。何故だろう?息子ばかりではなく、周囲を見渡しても、いつになく調子を崩す人が多い。徹底したコロナ対策で手の消毒やマスクをして過ごす時期が長かった分、体があらゆるウィルスへの抵抗力を無くしてしまったのだろうか。

初冬の頃など、息子のクラスは欠席が10人近い日が続いた。地方に暮らす親戚も子供のクラスの半分が欠席だと話していたから、この現象は都会だけのものではないらしい。

 

とにかく、夫に息子を任せ、学校見学は仕方なく私一人で赴くことにした。向かうはパリがパリたるカルチエ・ラタンとなれば、足取りも軽い。

 

道すがら、新品の浅型フライパンを肩に担いだ男性とすれ違う。パートナーと思しき女性と楽しそうに会話しながら歩いている。

そういえば、過ぎたる木曜はシャンダラーだったなと思い出す。日本の節分に相当し、フランスではカトリックの習わしでクレープを食べる日なのだ。

すれ違ったカップルは、「木曜は時間がなかったから、週末の今日にクレープを焼こう」と相まったのだろう。それで台所のフライパンを引っ張り出したら、相当使い込んで古びているので、これではクレープがこびり付いて上手くひっくり返せない。新しいフライパンを買いに行こう、と思い立って2人で買い物に出たのだろう。

そんな光景が映画のように浮かんで微笑ましかった。肩に担いだフライパンが、週末のテニスに向かう人のラケットのように自然で、妙にしっくりと似合っている。パリジャン然りだ。

 

賑やかなカルチエに入ると、今度は黒いスーツに蝶ネクタイ姿のムッシューが、渋滞する車を横目にキックボードで颯爽と通り過ぎて行く。由緒あるカフェで給仕の仕事でもしているのだろう。そのシックないでたちにキックボードの取り合わせが茶目っ気たっぷりで、これまた微笑ましかった。写真に収めたかったけれど間に合わず。残念。

 

見学した学校はカルチエラタンのど真ん中、私のお気に入りの教会のすぐ近くにある。贅沢な環境。でも、ひと回りして思うに、我が息子が目指すべきは他所にある気がしないでもない。

生徒たちがデザイン制作したポスターを売っていた。その中で16世紀のパリの地図が目に止まり、記念に一枚買って帰る。LUTETIA と呼ばれていた頃のパリは現在のパリよりずっと小さくて、柵と見紛う城壁に囲まれ、家がキャベツ、町は畑のようで可愛らしい。

 

帰り道、昔ながらの天然酵母を使ったパン作りで有名なブーランジェリーに立ち寄る。まったく、パリは誘惑が多い。

この店の名物の一つ、林檎タルトに、見ると今日は可愛らしいピンクのプラリネが載っている。「愛の林檎タルト」と銘打ち、バレンタインデーに向けた季節限定のあしらいのようだ。

せっかくなので、指をさして「これをください」ではなく、「その愛の林檎タルトをください」と敢えて名指しして注文する。血色の良いピンクの肌に鮮やかなルージュをひき、くっきりと長いクレオパトラ風のアイラインを入れた売り子の女の子が、タルトをくるくるっと器用に紙に包んでくれた。私がパリに来たばかりの頃も、このエキゾチックなアイラインが若い女の子達の間で流行っていたっけ。どうやらブーム再来のようである。

 

ここでの生活が長くなっても、日々の生活で観光客ごっこができるところは、外国人として暮らす利点だと思う。それにしてもこの街は人間観察が面白い。3年前はゴーストタウンと化していたパリに、すっかり活気が戻っていることに心からホッとしている。

意せずして、今日は改めてパリを満喫する日となった。