薔薇を求めて入ったフローリスト。
アネモネを手に店を出た。
聞けば、イタリア産とのこと。
繊細でいかにも儚い、
薄いネグリジェのような花びらがふんわりほどけると、
その奥に、したたかにマスカラを厚塗りした、重たいまつ毛がびっしり。
それに縁取られた物憂げな瞳。
うっすらコケティッシュなアイシャドー。
ちょうど、
薔薇の花を前にして、当惑する星の王子さまのような気分になる。
今でもよく覚えている。
子供の頃に読んだギリシャ神話の絵本には、
美青年アドニスの額から流れる血から、美しい紫色のアネモネが咲いていた。
そう言えば、あの絵本はどこに行ってしまったのかしら。
確かに、
青白く、思わしげで、どこか不健康な美しさのある花だと思う。
ところで、パリの庭でもよく見かける秋明菊は、こちらではアネモネの名前で呼ばれているらしい。