パリの初雪
昼過ぎ、雪が降った。
そろそろ出掛けようかなと思っていると、キッチンの流しの向かいの窓に白いものがちらほら映って、顔を上げると雪だった。早くも、今年の初雪。それも上等な羽毛のような綿雪。
雪の日のこの静けさが好きだ。冬休み中にすっかり夜更かしの習慣が付いてしまったので、家族を見送った後、二度寝して遅く起きた月曜の今朝。ベッドでピーンと張った静けさを耳にしたのは、きっと雪の予兆であったに違いない。この独特の静けさは、雪が積もる前から現れるから不思議なものだ。雲の緊張感が募った音なのか。
氷点下の街に繰り出す前に、冬の日のスペシャルスパイスティーを淹れる。紅茶にシナモン、オレンジ、クローブ、カルダモン、ジンジャー、スターアニス。小鍋にすべて入れてミルクでぐつぐつ煮出す。先日ソニアが手土産に持ってきた、黒々とした棗の糖蜜もたっぷり入れて。
それから、日本の父に送る手紙にセザンヌの静物画の切手を選んで貼り、二重に着込んだセーターの上にしっかりコートを羽織り、ノエルに義母に貰った手編みの水色のボネ(帽子)を被って、外出の準備完了。いざ出陣だ。
メトロに向かう途中、昼食に家に戻った子供達が近所の小学校に戻るのとすれ違う。雪が降ると子供達が俄然元気になるから素敵だ。黄色い声をあげて駆け回り、スキップにホップにジャンプ。
何を隠そう、雪の日は私も元気になる。都会っ子の私にとって、雪は今でも特別なご褒美のようなものだから。子供達につられてぴょんぴょん小躍りしたい気持ちを抑えて、早足に駅まで歩いた。
予報によると、このモスクワ寒波はしばらく続く様子。こんなに寒いパリは久しぶりだ。20年前、この街に来たばかりの頃の寒さに似ている。