Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Les princesses de Grève

しおれかけた台所の薔薇の花だけれど、キャロリーヌがとても褒めてくれた。

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この微妙な花の色が素敵、花びんもぴったりね、と。

もう捨ててしまうつもりでいたけれど、彼女にそう言われてみると、首をくたっとさせてうなだれる憂いのある姿がそれなりに魅力的に見えてくるから不思議だ。一直線にピンと伸びた茎の上に花を据えて咲き誇っていた頃よりも、オールドローズ然りの上品な趣さえあるではないか。

アンティーク品を掘り出すのが上手なキャロリーヌ。晩期のバラの退廃的な美しさをも見出してくれた。

 

朝の熱いテ・ヴェール (緑茶) を注いで、お昼までしばしお喋りに興じる。

5歳年上の彼女は、教養ある淑女でありながら、外見も中身もどこか永遠の adolescente (ティーンエイジャー) で、幾つになってもその魅力に惹き付けられて言い寄ってくる男性が絶えない。サラサラの栗色の髪をポニーテールにして、好奇心旺盛な青い瞳をいつもキラキラ輝かせている。子供を優秀な学校に通わせる三児のママンでもある。

最近彼女に声をかけてきたタイプの違う男性陣の話から、恋愛感情の移り変わりや、夫婦という世にも微妙な一対の男女のあり方についてまで、ティーカップを片手に話は尽きない。距離を持たずにして恋心を抱き続けるのは、そもそも無理があるのではないかしら と、私は最近思う。夫婦なるもの、寝室を別々にするとか、敢えてアパートの隣同士の部屋に住むなどして距離を設けて、"Tu viens chez moi ? Ou je viens chez toi ?" とかなんとか夜な夜な色目を使ってséduction (誘惑)し合うくらいがいいのかも知れないと笑い合った。それってまさに Alexandre Jardin の映画 Zèbre (シマウマ) の世界ね、とキャロリーヌ。同じ作者の「ファンファン」は映画も本も知っているけれど、ゼーブルはまだ観ても読んでもいない。私の読みたい本リストは長くなる一方。

そう、夫婦という関係に欠けるのは、きっと相手を引き留めようとする誘惑のアートだ。引き留める必要のない家族というスタチューは、安心かもしれないけれど、アートが足りない。

 

外は、激しい雨が地面を打ち付けたかと思えば、ふと思い立ったように止んで、気紛れに眩しい光が射す、おかしなお天気。先週始まったグレーブ(ストライキ)の続行が決まり、今日もメトロや電車は動かない。

こんな日は、籠り姫になって家でじっとしているに限る。