Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Lettre pour le président

昨日の雪はたった1日で溶けてしまった。

 

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窓から外に目をやると、アパルトマンの中庭の芝生の上に、雪だるまだけがまだ昨日の形を留めている。微笑ましい。フランスでは夏のオヤツに食べるいわゆるアイスのことをエスキモーと呼ぶけれど、取り残された雪だるまはパリのエスキモーだ。

 

昼間、いつものように食事の支度をしながらラジオを聞いていると、フランスのとある学生の女の子が大統領に宛てた手紙が話題になっていた。

現在フランスは、幼稚園から高校までは通常通りに子供達を受け入れているけれど、大学を始めとする高等教育施設は軒並み閉鎖の処置が取られている。その上、カフェもレストランも、映画館も美術館も扉を閉ざしている。基本的に人が集うことは禁じられている状況なので、本来であれば青春を謳歌するはずの若い世代が大きな歪みを受けている事は言うまでもない。

 

件の女の子は、そんな自分の息詰まった心理状態や、未来に対する明らかな不安といった心の内を大統領への手紙にダイレクトにしたためた。一切の希望を失った状態にあることを伝えた。すると、なんと返事が届いたそうではないか。そういうところが、私がこの国に暮らして居心地よく感じる理由の一つだと思った。打てば響く。

 

マクロン大統領からの返事は、誠意こそ籠ってはいるものの、ここに特筆すべきほどの内容ではない。一言で言えば、彼女の悲痛な心の叫びに理解を示した。

手紙を出したマドモワゼルは、自分の胸の内を言葉を使って表に具象化できたこと、更に、その声に耳を貸して貰えたことで、たとえ問題自体は依然解決されていなくとも、既にひとつの満足感があったとインタビューに応えていた。その声のトーンはすでに明るかった。

 

にっちもさっちもいかない問題があった時、たいていの場合、相談された相手はそれを聞いてやるくらいしか方法がない。持ちかけた人間は、聞いて貰えただけで問題が軽減したと感じたりするものだ。相手の話を上手に聞いてやることは案外難しかったりもする。そして大抵の場合、最良の解決策は、問題を抱えている本人が結局自分で見つけるしかないのだと思い知ることになる。

 

とにかく、これまでの世界の回復を待っていては私達は間違いなく失望してしまうだろう。子供や学生といった極めて若い世代の人達は、いわゆる従来の社会というものに出た経験がない。だからこそ、「これまで」のモデルを規範にせず、「これから」のまったく新しい生き方を模索することに意味を見出してくれたらいいなと思う。きっとできるはずだ。大人の私達の役割は、そのお手伝いをすることだろう。

危機を逆手に取って転機にできたらいいなと思う。その為には、現在「経済」と呼ばれているものを思い切って捨てるくらいの方向転換が必要なのではないかしらと思ったりする。お金というものは、それ自体は食べられないのだから。