Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Le Mont dore

オーヴェルニュ地方に来ている。

 

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地図で見ると、フランスの真ん中のお腹のあたり。なだらかな山岳地帯。水と空気がおいしい土地。ソーセージとフロマージュの特産地。その他には、これと言って何にもないのが魅力の場所。

 

到着直後の3日間は素晴らしいお天気だったのに、その後は一週間ほど雨が続いた。いわゆる春雨と呼ばれる季節雨だろうか。山の植物達にとっては、これから迎える短い夏に向けて根っこを潤わせる恵みの雨なのだろう。

 

ようやく晴れ間が覗いた火曜日、案内人付きの軽い山歩きアクティビティーに参加してみた。冬はスキー場と化す山の中腹部まで車で登り、そこからてくてく、申し訳程度に雪を残した山頂を目指す。

 

こういう山は初めてだった。木というものが殆どない。その代わりに、密に茂った短い草が山肌を分厚い絨毯のように覆っている。太陽が少ないので、一面色褪せたような薄いモスグリーンの世界だ。頂に至ってはすっかり禿山で、所々に残った雪が白いアクセントを効かせていた。勾配が非常になだらかなので、小さな子供でも楽に登ることができる優しい地形である。

 

私は、ブーツの底に感じられるこの山の踏み心地にすっかりうっとりしてしまった。

リッチな草の絨毯は、充分な厚さがあるお陰で、たっぷり雨水が染み込んでも泥まみれにならずしっとりと柔らかく、その下の暖かい土の存在を心地よく伝えてくれる。パリの公園の芝生などとは明らかに踏み応えが違う。そうか、地球の踏み心地というのはこういうものだったか と思わされた。私の重みをしっかりと受け止めてくれる大地の感覚。毎日殻で覆われたような固い土地ばかりを歩いている都会人にとっては、新鮮な足裏の感覚だった。

 

重厚な絨毯は雨水のみならず音まで吸収する。そのせいで、山は独特の静けさに包まれている。広々とした空間に居ながらこんな表現も可笑しいのだけれど、まるで、上質な分厚い絨毯の敷かれた高級ホテルにいるようだなと思った。「お山ホテル」の広大なラウンジという訳だ。

 

雲の合間から時々青空が覗いて光の帯が射すと、山の神様が降臨するのが見えそうな気がした。山というのは神々しい。

 

長いこと冬眠することで知られているマーモットと、野生の茶色いヤギが遠方に点々と見える。ヤギ達にとってこの山の春は、辺り一面にサラダが広がっているようなものなのだろう。見渡す限りご馳走の山。きっと彼らの目には、とびきり素敵で贅沢な光景なんだろうなと想像する。

 

雪解け水は透明な小川を作り、麓に向かってキラキラと駆け下りてゆく。実にのどかだ。どこかの国では戦争が起こっているだなんて、想像できないくらいに。

 

緑の重厚な絨毯の上を歩けただけでも、ここに来た甲斐があった。いつかまた夏に来ることがあったなら、絨毯は柔らかい草のベッドになって、青い香りに包まれた贅沢な昼寝ができそうだ。