Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Sentimental journey

長い長い覚え書き

 

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ヴァカンス先からパリに戻る旅は、いつだってちょっとセンチメンタルだ。

南仏からの帰り道は、私と夫と息子の3人に義理の姉アンが加わった。夫は最近作ったメガネの度が合わず、念のため高速道路はアンが終始ハンドルを握ることになった。

南仏からパリまでの距離は約900km。真ん中のリヨンで一泊しても、1日に4時間以上高速を走ることになる。休み休み進むのかと思えば、意外にアンはハイスピードに慣れっこで、休憩は一度だけ、それも息子がそろそろお尻が痛いと溢すので半ば仕方なくといった具合だった。

行程の半分くらいは、一番左のレーンをびゅんびゅん走っていたように思う。安定感のある運転だ。何も言わなければ、ひょっとして4時間ノンストップで飛ばしていたかも知れない。ペーパードライバーの私は、感心することしきりだった。

訊けば、16才の時に免許を取ったと言う。
アンの娘、つまり夫や私の姪が現在ちょうど16才で、今まさに教習所に通っている。1年間は別のドライバーの付き添いが必要だけれど、16でも仮免許が取れるとのこと。免許習得も、成人に達するのも、フランスは日本より2年早いという訳だ。

 

さて、長い旅路の車中は、4人が交代で一曲づつ音楽をチョイスしようというルールになり、これがなかなか楽しかった。

古いのあり、新しいのあり、知らない曲、意外な曲、ノリの良い曲からブーイングの飛ぶ曲なんてのまであり、その上、ポップにロック、ジャズにソウル、レゲエにテクノと様々なジャンルが入り混じる。

ついでに、個人的な懐かしい思い出もあれこれ頭を過った。

 

スティービーワンダー、Sir Duke (愛するデューク)

大学生の頃、渋谷の丸井のサングラス売り場でアルバイトをした夏、この曲がひっきりなしにかかっていた。キアヌ・リーブス似のハンサムな店員の男の子がいて、遠目にはキリリと凛々しいのだけれど、話すとあまり面白くない。遠くから拝むに限る と、バイトの女の子達とキャッキャと笑ったりした。

向かいの交差点が青になる度に人がどっと流れ込み、高校生くらいの万引きグループなども時々やって来る。スティービーワンダーの軽快なBGMでリラックスを装いながらも、よくよく警戒するように言われていたっけ。

 

ジャミロクワイ、Too young to die

私が「交通安全を促す歌」と呼んで、夫とアンがあははと笑った。

18の頃、免許取りたての学友の車に5人で乗り込んで、静岡の修繕寺に遊びに行った。ヒヨヒヨという可愛いあだ名の、それにしては身長が180㎝を超える男の子の実家が漁業を営んでいて、そこに数日泊めてもらって合宿生活を送った。海辺の崖っぷちの曲がりくねった道路を走っている時に、ちょうど Too young to die がかかって、タイミングの良さにみんなで笑ったものだ。あれは楽しかったな。

食後に、畳の部屋に思い思いの格好で座して、F1のセナが事故で亡くなったニュースを見たのもその合宿の時だった。まさに、Too young to die。

 

ルイ・アームストロング、La vie en rose

さざなみのようなイントロが美しい。海辺の薔薇色の人生。トランペットの音色と、それに続くアームストロングの低く掠れたヴォイスが心地よく、うっとりとする。

 

キャロルキング You've got a friend 

昔、私の両親がよく聴いていた曲だ。アンと夫はピンとこない顔をしていたけれど、松任谷由実の「優しさに包まれたなら」と並んで、私の幼き日のドライブの思い出なのだ。

 

REM、Loosing my religion 

大学時代のサークル仲間に、コチャという名前で呼ばれていたロックミュージックに詳しい女の子がいた。彼女がある日、ロックに疎い私のために、お勧めの曲のコンピレーションアルバムを作ってくれた。一曲づつ彼女の手書きの解説まで付いていて、それはそれは嬉しかったのを覚えている。そのアルバムの中で一番気に入ってよく聴いていた曲。

 

ビヨーク、It's so quiet 

なんて才能のある人だろう!と聴くたびに思う。友人のシゲちゃんと顔が似ているけれど、久しく彼女に会っていない。どうしているかな? 

車内で、「シーッシーッ」と歌うところをみんなでミュージカルのように口ずさんだ。

 

ボブ・マーリー No women no cry

ハイテンポな曲にそろそろ飽きてきた頃に出たチョイス。これもみんなで歌った。

 

Bénabar、Petite Monaie 

私が勧めてからというもの、息子の大のお気に入り。どことなく居心地が悪そうな、なんとなく照れ臭そうな佇まいのミュージシャン。歌い出すと水を得た魚になる。歌詞を選ぶセンスが個性的で好きだなと思う。

 

クランベリーズ、Zombie 

義理の姉の選曲。私は Ode to my family や I can't be with you が懐かしい。初めての海外1人旅で、伯父伯母の住むカナダから、バスでアメリカのジムおじさんの家に遊びに行った日を思い出す。クランベリーズは、その家の、当時高校生だったレナちゃんのお気に入りだった。

 

アース ウィンド アンド ファイヤー、September 

こちらもアンの選曲。ダンシングなメロディーが息子に好評。ヴァカンス終了のセンチメンタルを吹き飛ばてくれる。来る新学期のテーマソングはこれに決めた!

 

ヴァネッサ・パラディ、I love Paris 

高速がようやくパリに入った時の選曲。快晴の南仏とは風景がガラリと変わり、パリはどんよりとグレーだ。曇り空で、寒くて寂しい。いやいや、何をおっしゃる、ここは花の都パリなのだと思い出すために選んだ曲。

この曲と、前述のセプテンバーを当面の我が家のテーマソングにしようと思う。

 

 

途中のサービスエリアに置いてあった新聞で、フランス人に帰化したアメリカ黒人ダンサー、ジョゼフィン・ベイカーの亡き骸がパンテオン入りすることを知った。グッドニュースだ。Elle est méritée (彼女はそれに値するさ) と、夫も頷く。暗い話題ばかりの昨今にあって、ようやく明るいニュースが紙面を飾った。

 

帰りの車窓から見たひまわり畑の花達は、夏を謳歌し切ってぐったりとした様子で、揃って地面を向いていた。実りの時だ。

 

ほがらかで常に上機嫌な人柄のアンは、カリスマ的なパワーのある女性だ。車の運転においても然り。仕事も家事もとにかく手際良く、リーダー格で、弟である夫も頭が上がらない。

移動2日目の朝、モーテルの朝食を一緒に取りながら、朝日の射すカフェテリアで彼女がメガネを外した時、その目の色が夫より薄いことに今更気がついた。南仏の家に飾ってあった、彼女のおばあさんの写真の目に似ているなと思った。

 

アンに、南仏で摘んだクロイチゴをパリに持ち帰ることを話したら、地面に近い位置にある実は取らない方がいいと教えてくれた。野生のキツネの排泄物の中に厄介な寄生虫が居て、それが人体に入ると肝臓まで達して悪さをする事があるそうだ。森で生活をする人達はその事をよく知っていて、例えば野生のキノコなどは必ず火を通して食べるという。私はもともと、犬や猫が用をたす事を予想して、低い位置にある実は取らないことにしている。もっとも、比較的高い位置に実を付けるトゲの多い灌木なので、クロイチゴは安泰だろうと話した。

必要な知識のない都会っ子のなんちゃって田舎暮らしは、危なっかしいゾ という戒めだ。

 

4人での復路は、音楽やお喋りのお陰で退屈することもなく、出発の翌日の昼過ぎには無事にパリに到着した。

 

ただいま、パリ。