春うららかな1日の終わり、テレビをつけたら、
私がパリに初めて来た日、タクシーの車窓越しに一番はじめに目に飛び込んできたパリの宝石、ノートルダム寺院 が燃えていた。
ショックで、洗濯物をたたんでいた手がパタリと止まる。
実況中継の声が伝える。
「寺院の梁は、全て木製であります」
こうしている今も、燃え続けている。
驚きと、やるせない憤り。悲しみ。
気の遠くなるほどの長い長い時間の結晶が、
そこに刻まれている、めまいがするほど多くの人々の息吹が、
ブラウン管の向こうで、なす術もなく焼け落ちていく。
パリではじめに私を迎えてくれた、美しい貴婦人が燃えている。
ユゴーを読もう。
そうすることで、私なりの喪に服そう。
形あるものは消え得る。
でも、ペンが残すものは、永遠にさえなり得る。