Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Les fruits

すっかりぶどうの季節です。

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くだものの話をすこし。

 

フランスで素敵なことの1つは、やさいくだものが手頃な値段でふんだんにあること。フランソワーズみたいな名前のフランボワーズや、大粒のブルーベリーといった、乙女心をくすぐるフリュイ・ルージュ(赤い実)も贅沢に手に入る。さすが農業大国。

 

個人的に、ぶどうはエレガントなくだものだなと思う。その房の様子といい、楕円形の粒の丸みといい、葉っぱの鋭角過ぎないぎざぎざ具合や、ギリシャ彫刻の精悍な若者の巻き毛のような螺旋の蔦といい、全体的に上品な佇まいだ。その上、この果物から「ぶどう酒」が生まれるのだから、神聖なムードまで加わる。

ワインの知識を少し齧っていた頃、古代ギリシャ時代のアンフォラという土器のことを知った。それはそれはスマートな、腰のくびれた若い女性が、両腕を頭の上に乗せてポーズを取っているような、ほっそり優雅なシルエットの土器だ。地中海沿岸では、すでに紀元前からこのアンフォラを使ってぶどう酒が海を渡っていたという。

シオタという南仏の海辺の町を訪れた時、小さな博物館に本物のアンフォラが飾ってあった。当時の沈没船が海底に残していったものだ。やはり中身はワインだったのかしら。

ギリシャ人のみならず、ローマ人も相当のぶどう酒好きであったらしい。彼らは横になって食事をする習慣があったと聞く。昼下がり、片肘をついて寝そべったローマ人貴族が、杯からぶどう酒をすすり、高台付きの皿に盛られたぶどうのひと房を手に取って、その腕を高く掲げ、甘く重く垂れ下がる紫の実を、まるで葡萄棚の下にでも居るような有り様で貪っている。そんな贅沢な様子が目に浮かぶ。

因みに、私が好きなフランスワインは、南仏の太陽をたっぷりと浴びた、タンニンの豊かなコルビエールやカオールといった深紅のワインである。

 

ディネの後、ソファーでマルセル・エメの壁抜け男の話を息子に読んで聞かせていたら、主人公の男が chapeau melon をかぶっていた。メロン帽。シュールレアリズムの画家、マグリットの絵によく出てくる、あの丸みのあるフェルト製の山高帽のことだ。山と聞けば、即座に富士山のようにてっぺんをスプーンですくって平らにしたような山をイメージする日本人の私は、山高帽と聞くと、メキシカンハットやパナマ帽のようなかたちを即座に思い浮かべてしまう。だから、フランスの「メロン帽」のほうがぴったりだなと思う。中原中也が被っていた、メロン帽。

 

メロンといえば、こちらで比較的ポピュラーな前菜の1つに、melon au porto がある。半球に切ったメロン(オレンジ色のものに限る)の真ん中の種のところを丸くくり抜いて、そこに甘口のポートワインを波なみと注いだものである。昔、パリで留学生活を送っていたお酒に弱いミキちゃんが、招かれたフランス人のお宅で初めてそれを出されてビックリ、困ってしまった と話していたのを思い出す。とっても小柄で妖精のような彼女が、自分の頭より大きいメロンの真ん中に、ねっとりと赤黒い液体がアルコールの香りをぷんぷん放っているのを、当惑しながら覗き込んでいる様子が目に浮かんだものだ。