Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Le premier rancard

冬休みも終盤、息子を連れてアイススケートに行くことになった。

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毎年この時期になると、あちらこちらに期間限定のスケート場が出現する。それは大きなジャルダン(公園) の中だったり、パリの市庁舎前だったり、モンパルナスのビルの上だったり。息子が行きたいとせがむのは、中でも一番巨大なグラン・パレのスケート場だ。去年連れて行ってから味を占めたらしい。シャンゼリゼからほど近く、巨大な温室のようなガラス張りの天井と、それを支えるアールヌーボー様式の鉄筋の骨組みが雅やかな場所だ。

せっかくなので、ほかの子供も一緒に誘おうと思い、姪の家に電話をかけてみた。子供と言っても、息子のいとこに当たる彼女はもうすぐ15才。洗礼式で抱っこしたおべべ (bébé ベビー)ちゃんに、まずは靴のサイズ、次に身長を抜かれ、いつの間にかすっかり大きくなった。抜かれないのは年齢だけ。まだ大人 adulte ではないけれど、だからもう子供 enfant ではない。いわゆる「お年頃」という年齢。フィーユ(fille 女の子)には違いないけれど、体つきも大きくすっかり女性らしいシルエットになって、TPOによっては一人前にお化粧もして、すでにジュヌ ファーム (jeune femme 若い女性) の様相だ。もう回転木馬にも乗らないし、映画もアニメは卒業して、ウディーアレンを好んで観たりする。年末のミス・フランスのTV番組を見て、女性を商品化している と憤慨したりする、頼もしい未来のフェミニストでもある。今年のノエルの彼女のリクエストは、ヘアアイロンと化粧ポーチだった。栗色の髪を腰近くまでうねらせて、眩ゆいばかりのマドモワゼルなのだ。

電話口に出たのは彼女のママン、私にとっての義理の姉、アンだった。「折角だけれど、あの子ね、今日は友達と出掛けてるの」という返事。フランス語という言葉のシステムは、「友達」とひとこと言うにしても、女性形か男性形か、単数形か複数形を明確にしなければならないから、良くも悪くもその辺りのところが曖昧にできない。ユヌ・コピンヌ(女友達 une copine)や セ・コパン(友人達 ses copains) と出掛けている事は今までにも時々あったけれど、今日のアンの口から出たのは アベック アン コパン (avec un copain) であった。男性形の単数形である。これは今までにあまりなかった。「アン コパン?」と思わず聞き返すと、「そう、アン コパン」 とこちらの意を解して笑って返ってきた。C'est son premier rancard... 聞き慣れない言葉だった。rancard ハンキャーとは、rendez-vous ランデブー、すなわちデートのこと。ママンとパパの知る限りでは、彼女の初めてのデートであった。彼女のパパ、フランクは、愛娘の初デートに一体どんな反応を示したのかしら?何時に帰ってくるのか とソワソワしていたのではないかしら?

そんな訳で、アイススケートは結局私たち家族3人だけで出掛けることにした。お子様用リンクで試し滑りする我が息子を眺めながら、男の子は今のうちに可愛がっておいた方がいいわよ、とアドバイスをくれた年上のメ・コピンヌ(女友達たち) の言葉を思す。そのうちママンなんて煙たがるようになるから、と。あと何年後かな?