蜜柑の中でもお気に入りは、コルシカ島産のクレモンティンヌだ。
青い葉っぱをたくさん付けて、冬のマルシェに元気よく並んでいる姿を目にすると、すでに買い物籠は重くともつい手が伸びる。南の太陽をたっぷりと浴びた実は小粒で、薄い皮の内側にぎゅうっと甘みを閉じ込めている。
フランスで蜜柑と言えばマンダリンという呼び名もあるけれど、人にクレモンティンヌとの違いを聞いて未だ満足な答えを得た試しがない。
種が多いか少ないかの違いであるとか、皮の厚さや実の大きさで区別するのだとか、産地の違いであるのだとか、聞いた人の数だけ違う答えが返ってくるから面白い。そもそも品種が違うのだろうけれど、比べてみたところで、見た目も味もあまり変わらないのだ。
コルシカ産以外の蜜柑は、主にスペインからやって来る。いつか息子に食べ比べさせたところ、ルックスはスペイン産に(こちらの方が大きかった)、味はコルシカ産に(こちらの方が甘かった)郡杯が上がった。
柑橘類ついでに、
先日、ベルガモットシトロン (citron bergamote) という珍しい檸檬を手に入れた。ふくよかにまあるい形の檸檬で、モロッコのマラケシュにしか育たないのだとか。手に入る時期も短く、1月の一ヶ月間くらいなのだそうだ。真っ二つにナイフを入れて、その香りに驚いた。くだものの香りと言うよりも、オーデコロンの香りなのである。朝のシャワーを浴びた後の、あの爽快な青い香り。
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
高村光太郎の妻、智恵子が齧ったレモンのことがとっさに頭を過った。まな板の上に載ったそのベルガモットシトロンの香りは、まさに、ぱあっと意識を覚醒させる電光石火の爽やかさだったから。
そしてセカンドノートは、何かもう一つ別のものを思い起こさせてくれる。そう、それはアールグレイの紅茶の香りだ。
ご当地モロッコでは、このベルガモットシトロンを使ってチキンタジン(モロッコ風のトンガリ帽子鍋)にするのだとか。想像しただけでお腹が鳴りそうだ。
すてきな果物のデクベール(発見)。私の誕生日月のくだものであるところもまたよし。