Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Aujourd’hui e.t.c.

一昨日だったか、アパルトマンのエレベーターで最上階に住むフランソワと顔を合わせた。

 

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なぜか普段あまりすれ違うことのない彼だけれど、小柄で誠実で清潔感があり好感を持てる人だ。年齢は50をほんの少し超えたくらいだろうか。髪には白いものが目立ち始めている。動作が敏捷で頭の回転がとても速い人だ。

狭いエレベーターの中で Ça va ? と尋ねると、ひとたび Oui, ça va と答えた後にほんの一瞬間を置いて、「実は」と切り出した。

両親が迷った末に今日ワクチン接種を受けてね、心配だから今夜は一晩一緒に過ごして経過を見ようと思って、今から向かうところなんだ。

「心配だから」と言いながらこちらの目を窺うように見た。最新のニュースで、ワクチンを接種された高齢者の方で副作用の影響で命を落としたと思われるケースが2件ほど報告されたばかりだった。接種の後、異物の侵入に反応した身体が発熱することは稀ではないらしい。もともと老衰が進んだ状態であった場合、結局その発熱が命取りになってしまう可能性は否めないという。

ニュースを耳にしていて、その心配もよく分かるという意味を込めて頷いた。補説の必要がなさそうだと確認したフランソワも頷いた。0 階に着くまでの極短い時間なので、話したくても多くは語れない。うつむいて自分の靴の先をじっと見るようにしながら、「父親のほうはもう87なんだ。特に病気している訳ではないけれど、こればっかりは気になるからね」と呟く彼だった。

エレベーターの扉が開くと顔を上げ、気を取り直したようにニッコリして「何はともあれちょっと行ってくるよ。Bonne soirée ! 」と先を急いだ。小さい旅行鞄を肩に下げていた。

ただえさえ夜な夜な雨と強風が続くこの頃だ。その晩、彼は無事に心安らかに過ごせただろうか。

 

フランスは現在の外出制限に留まらず、去年の春に経験した本格的なロックダウンが再び布告されそうな気配だ。イギリス産の変形種がじわじわと広がり始めているらしい。原種に比べて感染力が70%も強いのだとか。専門家によると、ピークは3月頃になるそうだ。ちょうど去年と同じ時期に当たる。非常事態宣言は6月1日まで引き伸ばされる事になった。去年とほぼ同じシナリオだ。

 

年長者は細心の注意を払わなければならない。年少者は体力を持て余している。みんな同時にロックダウンを行ったら、病院が飽和状態になることは一時的に避けらるとしても、果たしてウィルスは去って行ってくれるのだろうか。

 

一人暮らしをしていたり、退屈していたり、他人とのコミュニケーションが希薄で辛い日々を送っている若者達がいるならば、みんな集めて一時期田舎に「疎開」させることが出来ればいいのになと思う。彼らにとっては幸いウィルスの危険が薄いのだとしたら、各自閉じ込める代わりに若者同士でコミュニティーを組ませて、そこで勉強の合間に畑を耕して働いたり、一緒に料理や掃除をしたり、自分達でアクティビティーや企画を立ち上げたり、自然以外は何もないところで半分自給自足の共同生活を送らせることができたら、彼らの将来に役立つ学びになるのではないかなと思ったりする。学校や目上の人間に常にすべき事を指示されるのに慣れっこになっている「大きな子供達」にとって、良い冒険になると思うんだけれどな。理想論だと笑われるかな。

 

今これを書いているテーブルには、花瓶に活けたチューリップの花がすっかり開ききっている。時々ふとその香りがする。チューリップにも香りがあるなんて知らなかった。どうやら咲ききって花びらもほころぶ頃が薫り時のようだ。

昨日は一日家の大掃除と家事で明け暮れた。今日はこれから息子の服を買いに行く。そろそろ持ち前のズボンの裾が揃って短くなってきたところ。水曜から始まったばかりのソルド(セール)に挑むとしよう。大振りのマスクをしっかり着装し、カバンをたすき掛けにして、いざ進め。肝っ玉カアチャンの出陣だ!