Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Le cocon et le papillon

繭と蝶のはなし。

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ロックダウン生活に入る前、道で転んでケガをした。

薄暗い夕方、乗ろうとしていたバスの時間に遅れそうで、携帯電話を片手に画面の時刻に気を取られながら、慌てて道を横切ろうとしたら、視界に入っていなかった道のヘリに躓いた。そそっかしい私らしい。

 

けっこう派手にばったんと転んだので、近くを歩いていたマダムと、自転車で通りかかった若い男の子が Ça va ? Ça va ? と口々に言いながら、救いの手を差し伸べに駆け寄って来てくれた。温かい人の手はありがたい。

 

躓いた瞬間、右手に持っていた携帯を守るべく、体の左側に重心をかけて上手に ( ? ) 転んだので、結果的に、左ヒザ、左の手の平、そして左の頬の 3ヶ所に立派な擦り傷を作った。携帯電話は無傷。

 

夫が私の顔の傷に気が付いたのは、なんと翌日のことだった。奥さんの髪型が変わっても気付かない旦那さんの話はよく耳にするけれど、顔面の派手なスリ傷に気付くヒマがなかったとは、勲章ものである。目がどこに付いているのやら。頭を上にした時に、確か、両目が左側に付いているのがヒラメで、右側に付いているのがエイだと聞いた事があるけれど、夫のそれは頭の後ろ側に付いているのに違いないと密かに想像して笑った。

 

頬の傷は、そこだけうっかり日焼けでもしたように、思ったより長い間薄い跡が残っていたのだけれど、今朝顔を洗って鏡を見ると、気が付かない間にすっかり消えかけているではないか。自分の顔の変化にさえ鈍感な、夫に負けじと勲章ものの私である。

 

肌の再生を目にこんな事を思った。

ロックダウンのお篭り生活は、繭の中の時間なのだと思えばいい。日の目を見る時に向けて、せっせと美しくなるために確保された時間。華麗な変化を遂げる前の準備期間。たくましく成長するために、敢えて包み込まれた時間。

それにしても気が付くのが遅かった。もうすぐ繭の時間が終わってしまう。美しくなる努力の一つや二つでもしておけばよかった。

 

待っている時間はなかなか過ぎない。

待つのを辞めた途端、あっという間に過ぎていく。