Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Le monde selon Michel

いわゆるトンネルから抜けた1日目。

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もちろん、世界は昨日に比べて一見何の変化もない。

夫はマスクと消毒ジェルを持って2ヶ月ぶりにカイシャに出向いたけれど、息子の学校は相変わらず閉鎖中であるし、宿題は相変わらず次々に送られて来る。窓から見える閑散とした風景も、昨日とそれほど変わらない。

 

許可書を一筆したためなくても外出できるようになったので、運動がてら夕方の街に散歩に出た。街角で見かける chat perdu (シャ・ペルデュ/ 迷い猫) の張り紙が随分増えたような気がする。ロックダウン中も許可書の要らないネコ達は、散歩に出たまま、車通りも少なく空気は澄んで人気のないワンダーワールドに魅せられて、そのまま家出してしまったのかしらん。

 

行きつけの本屋の前で足を止めると、明日から開店の張り紙があった。朗報。「私ども店員はマスクを着用し、レジの前にはガラス板を張り、お客様用の使い捨て手袋を戸口に用意してお待ち申し上げております。お支払いはカードでお願い致します。」まるでサイエンスフィクションの世界だなぁと思う。

 

夫好みのフランス人作家の一人に、ミッシェル・ウェルベック (Michel Houellebecq) という人がいる。タバコとお酒の匂いがぷんぷんしそうな、いかにも退廃的で男性的な現代作家だ。夫と出会ったばかりの頃、ガヤガヤした酒場でお勧めの現代作家の本は何かと訊ねたら、ウェルベックの新刊を勧められた。当時の私のフランス語力では歯が立たなかったばかりか、一筋縄にはいかないニヒルで独特な癖があり、これは読めたものではない と、借りてはみたものの読まずに返した。結局、そのまま現在に至るまで読んだことはない。

 

そのウェルベック氏がロックダウン後の世界についてコメントしている記事を、やはり夫が見付け出し、料理をしていて手と目の離せない私に読み上げてくれた。

「このウィルス騒動以降の世界がそれ以前の世界と一変しようだなんて、一瞬たりとも思ってみた事はない。世の中は一つも変わらない。それどころか、更に酷くさえなるだろう。人間同士の希薄な接触は、今後更に拍車が掛かるだろう。」

だからこの作家は読めないと感じた訳だと、今更ながら合点がいった。夫は、頭脳明晰で先見の明があるウェルベックがそんな風に言ってるぞ と、「世界を変えよう派」の私の反応を見てみたかったようだ。

 

時代を予測できる人は、たしかに頭脳明晰かもしれない。

でも、彼の予測はヴィジョンと呼べるのだろうか。その意思はどこに?希望はどこに?

まるで、病気を正確に言い当てても治せないお医者のようだと思った。

 

写真は、散歩の途中で目にしたアパルトマンの扉。パリでよく目にする、アールデコ調で私好みの扉。磨りガラスの向こうに何があるのか見えないけれど、どうやら中庭に通じているようで、うっすら光が射していた。

 

光あれ!