旅の準備にはいつも時間がかかる。
よく夫婦喧嘩になるのも旅の直前だ。
20分もあれば準備完了する夫に対して、私は2日くらい前からあれやこれやと要領悪く忙しい。
パリはここのところ40度近い猛暑が続く。せっかくバルコニーに芽を出したオレンジやマンゴーの種も、不在のうちに枯れてしまうのかと思うと残念でならない。せめて今だけでもと、出発直前にせっせと水やり。玄関でじりじりして待っている夫に、ムダな努力だと喝を入れられる。待てないなら私を置いて出発すればいいのだと言い返す。この人は、ある意味で、日本人の私よりもよっぽどブディスト (boudhiste / 仏教徒) の資質があるといつも思う。奢れるものも久しからず。すべては滅びる。固執するのは愚か。腹が立つけれど、我が家のゴータマシッタールダちゃんなのだ。大事なものがいっぱいあって右往左往する私を横に、なんて面倒くさい奴なんだと極めて涼しい顔をしている。
とにもかくにも、南仏を目指して昨晩パリを後にした。
車でひたすらだだっ広い国土を横切る。南に南に。黄昏る空をバックに、手足の長い巨人みたいな風力発電のプロペラがゆっくり回っている。いってらっしゃいと言っているみたいだ。気を取り直して、行って参ります。
