パリから車で6時間ひた走り、夜中の2時に南仏に到着した。
まずはアヴィニヨンに一泊宿を取る。
ここは14世紀からキリスト教の長である教皇が住んでいた町。その宮殿が見事な美しい城下街だ。いわゆる「ローマ教皇」が、ローマではなくて一時期フランスに住んでいたなんて。いつか歴史の授業で習ったのかも知れないけれど、まったく記憶に残っていなかった。百聞は一見にしかず。夫曰く、かの時代は、フランスの王様の権力がそれほど絶大だったのだとか。
アヴィニヨンは毎年夏に演劇祭が行われることでも有名な町。今年はそれも中止になったけれど、それでも大勢の観光客で賑わっている。その顔にマスクさえなければ、一見、いつもの夏となんら変わりないように見える。そしてもちろん、アジア人にはほとんどお目にかからない。
南の太陽は文字通り肌に焼けつくようで、グリルのお肉になった気分だ。プラタナスの木陰のカフェテラスに落ち着くと、パリでは耳にしない蝉の声がする。因みに、南フランスの蝉はミーンミーンではなくジジジジと鳴く。
ここは今回の旅の単なる通過地点なので、ただふらっと町を一回りして、さらりと過ぎる。夏のソルド(セール)がまだやっていて、買い物嫌いの夫が婦人服店の前で珍しく立ち止まって「見て行く?」と聞く。昨夜の出発前の口げんかの修繕策といったところか。興味がないので首を横に振ったけれど、彼の努力は認めるとしよう。
その隣にバレエ服の店が並んでいた。白いチュチュ風ドレスの飾られたウィンドウにアヴィニヨンの町が映って、劇の一幕のようだった。
この後、港町のマルセイユに向かう。