Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Le progrès

夜のソファーでひとり静かに読書していた。

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と、書斎のドアがスッと開いて夫が出てきた。

例によって冷蔵庫に直行するかと思いきや、目の前に来て、本人に似つかわしくない甲高い声で  Regarde ! (見て!) と言う。見ると白い花の小さな束を手にしている。我が家のバルコニーの壁に這うように咲いているのを、書斎の窓辺でタバコを吸いながらむしった様子だ。夜にむせるほど香る花なので、植物にはとんと疎い夫と言えども気が付かない訳にはいかなかったようだ。最近、やはり植物には全く興味のない息子が、道端の花を摘んで「見て!これ、ママにあげる」と言って私をいたく喜ばせたことがあったので、ふざけてそれを真似てみたらしい。

 

例えば、

頼まれずとも私は夫の好きなリオレ(riz au lait / ミルクにお米が入ったデザート) やサクランボのクラフティを冷蔵庫の上段にストックしておくけれど、10年以上一緒に生活していても、夫は私の好みをよく把握していない。買い物に行ったついでに、気を利かせて私が欲するものを買ってきて貰った試しがない。勿論きちんと頼めば話は別だけれど。結婚相手の私どころか、自分の母親や姉の好みにも無頓着なようで、誕生日やノエルといったプレゼントの機会がある度に、何を贈れば良いのかさっぱり見当が付かずに頭を悩ませている。

相手の喜びそうな事を察する というのは、我が家の男子陣の苦手とするところだから、小さな花束は大きな前進。

 

花といえば、

夫の南仏の実家には、門の脇に大きなキョウチクトウの木があって、毎年濃いピンクの花が郵便受けボックスの上を覆いかぶさるように咲いて見事だった。ところが、ある時行ってみると、トレードマークのその木が切り倒されている。目の前の道を新しく舗装するのに致し方なかったらしい。夫にあのピンクの花がもう見れなくて残念だと言うと、どの花?どの木?と聞き返された。何十年もそこにあって、毎年あれだけ派手な色の花を誇らしげに咲かせていたというのに、全く気が付かなかったらしい。花とか植物とかいうものは、それくらい夫の目に入らないものらしい。南仏の家の玄関には、アーチ状に巨大なブーゲンビリアの茂みが鮮やかな赤い花をつけているけれど、それだってちゃんと目に映っているんだか怪しいもの。

そんな彼が息子に触発されて冗談にも花を摘んだのだから、これは驚くべき前進。

 

夫というのはまったく面白い生き物だ。