Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

L’éloge d’orange

オレンジ讃歌

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冬が近付き、庭もベランダも日に日に緑が寂しくなってゆくこの季節、私はすっかりオレンジに夢中だ。

 

寒い季節の小さな太陽は、丸くて明るくて重量感があり、なにより目の覚めるような鮮やかな香りがいい。

パリの空がだんだん鈍い灰色を増してくぐもってゆくのに反して、オレンジの黄金色はますます濃く、明るく、輪郭もくっきりと元気になってゆく。寒さに強い体質なのだ。弾力のある引き締まった実に爪を立てると、仕掛けてあった百もの匂い玉が弾ける。爽やかな黄い香りが解放される。幸せな覚醒のひと時だ。

 

冬籠りの支度をする山の小動物のようにせっせと集めているオレンジやクレモンティーヌの皮は、使い道が沢山ある。

例えばおやつに。デーツを半分に割って種を取り除き、大粒の塩の結晶を一粒ふた粒飾る。これは小さなダイヤの粒なのだ と思いながら。針状に細く刻んだ短い金髪のようなオレンジの皮を数本散らばせて、仕上げに勲章のように胡桃を載せ、ねっとりとした果肉の上にぎゅっと押さえ付ける。デーツのボートにオレンジと胡桃が乗っているような具合。あるいは、コートの胸に飾るブローチのようにも見える。最近の私のいちばんの発明。デーツの強烈な甘みにオレンジピールの苦味と塩の歯応えがアクセントとなり、絶妙なハーモニーだ。デーツをフィグ (イチジク) に替えても美味である。

 

濃いめに煎れる紅茶のティーポットにももちろんオレンジの皮を入れる。シナモンの欠片も一緒に浮かせる。

ほうじ茶にも刻んだオレンジの皮とクローブを2、3本加えてみた。なかなか美味しい。温かな香りの飲み物になる。

残った茶がらには更にオレンジの皮を足して、床の掃き掃除に使う。掃除というよりお清めに似ている。修道院のシスターになった気分で、彼女達が中庭の枯れ葉を掃く要領で厳かにホウキを動かす。晴れの日に行うのがよい。部屋の空気が心なしか神聖になる。

 

夕ご飯だってオレンジの香り。タラと野菜の包み焼きに、オレンジの皮を細かく千切りにして隠し味に添えてみた。遅く仕事を終えた夫はパソコンの前で夕食を済ませるとのたまう。ながら喰いでは気が付かないだろうと思ったけれど、空の食器を手に書斎から出てきた夫は、柑橘の香りが良かったと感想を述べて私を喜ばせた。オレンジ、スバラシ。

 

サラダはドレッシングにオレンジ。果汁を数滴。それから果皮のみじん切りをひと摘み。息子は鼻をくんくんさせて、山盛り一皿ぺろりと平らげた。オレンジは魔法。

 

来たる今年の冬はオレンジの香りで乗り越えよう。

そう、我が家はオランジュリー。あれこれ使い道を考えるだけでルンルンなのだ。