Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

The scoop

日々の記録に時間を割くまいと決めたばかりだけれど、結局、書かずにいられない事もある。

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昨晩、夫が家のドアの前で小さなネズミを見つけた。すでに息絶え絶えで殆ど動かなかったと言う。きっとアパルトマン中に仕掛けてあったネズミ退治用の毒入り団子(?)を食べたのだろう。しっぽからつまみ上げた状態で、ぶら下げて見せに来たので、ソファーで寛いで本を読んでいた私は仰天した。とっさに悲鳴を上げそうになるけれど、よく見ると至極小さくて、悪さをしないうちはむしろ可愛らしい生き物のはずだと思い直す。どうしたものか悩んだ末、夫はそれをベランダからアパートの庭のなるべく遠くに放り投げた。着地した草の上でもうすぐ息絶えるだろう。そこがネズミの終点だ。

 

我らが愛すべき年季の入ったアパルトマンは、一年ほど前に地下でネズミの襲来を受けている。人の集まるパリはネズミの数も多い。駆除の専門家がやって来て、地下はもちろん、各家庭も訪問して毒入りボックスを仕掛けて回った。我が家では幸い彼らの被害を受ける事は無かった。

 

今朝、居間でお茶を飲んでいると、すぐ目の前の窓辺に大きなカラスが止まった。窓枠からその黒い頭だけが飛び出して見える。クチバシに何かをくわえている。それをよくよく見て我が目を疑った。なんと、昨日の小さなネズミではないか!その細い尻尾がだらんと垂れている。カラスはしばらく首を右に左に振って、まるで「コレ、結局ボクが拾って頂きましたよ」とでも言うように、窓越しに獲物を再三見せ付けるようにしてから、今度は向かいのアパートのバルコニーへと飛び立った。遠目に見て初めて分かったのだけれど、カラスではなく、横腹に一筋の白い模様が入ったおしゃべりカササギだった。愛嬌のある鳥だ。カササギは隣人のバルコニーにネズミをひとたび降し、チョンチョンとクチバシで突いて動かない事を確認し、またくわえ直して今度はもっと遠くに飛び去って行った。Incroyable ! (Incredible!) 遠くに放ったというのに!まるで、ここが出所だと知っていたかのよう。ご丁寧に知らせに来たのだ。Ça alors !

 

ちょうどテレワーク中の夫が書斎から出てきたところをつかまえて、このホットなスクープを報告する。奇異な偶然だ。面白おかしく興奮して話して聞かせているうちに、ふと気が付いた。そうか、今度は、ネズミを食べたあのカササギが病気になってしまうのだろうか。。。笑い話への興奮が急にスーッと覚めていく。ネズミを退治するつもりで撒いた猛毒が、食物連鎖で広がってゆく。まさにその光景を目の前にしたのだ。庭で見つけた獲物を黙って受取らず、ちゃんと挨拶に来た礼儀正しいカササギは、勿論そんな事とは露とも知らない。複雑な気持ちになった。ちょっと突いて、「なんだ!これは不味い!」と捨ててくれればいいのだけれど。。。

 

先日家中の植木を一回り大きな鉢に植え替えたばかりだけれど、夫も息子ももちろんそんな事には全く気が付いていない。それなりに時間もかかり、大きいものは運ぶのに重労働だったので、そのまま素通りされるのも惜しいと思い自己申告してみた。食事中の息子に話を振る。「ほら見て。植木鉢を替えて大きくなったでしょ。植物は大切だからね。」食べる事に忙しい息子はいかにも気の無い返事。植木なんてあっても無くても同じ という顔をしているので、更に続ける。「地球上の植物がなくなったら、人間は生きられないって知ってる?」別にエコロジストを気取りたい訳ではない。理科で習った光合成や酸素と二酸化炭素の循環のことは、ちゃんと彼の頭に入っているだろうか?と思っての質問だった。動物と植物は持ちつ持たれつの関係なのよ と言おうとして、待てよ と思い留まった。動物はともかく、人間はどうだろう? 地球上の人間が居なくなったら、植物は生きられない?とんでもない!生存問題に全く影響が無いどころか、逆に、人間が居なくなったら植物達はもっと活きいきするのに違いない。やれやれ。

ある生き物が絶滅すると、地球の生態系のバランスが崩れるというけれど、人間に関してはその逆だ。私達はもうこの星に必要とされていないのだろうか?

少なくとも、「人間は自然の征服者か否か」なんていう西洋的な質問は、いかにも答えが明白だと思い、ひとり苦笑いした。

人間として、慎ましやかに生きたいなと思う。