Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Nuit ventée

風の強い日。

 

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アメリカ大統領の就任式の日。

その様子を、いつものように食器を洗いながらキッチンのラジオで聞く。暴動もなくつつがなく事が運んだことに、遠い空の下ながらも胸を撫で下ろす。

数日前のラジオでは、敗北を認めないやけっぱちのトランプ氏が常軌を逸したら何をやりかねるか分からない、核兵器さえ稼働させかねない という世にも恐ろしい噂が報道され我が耳を疑った。

「いくらなんでもそんなまさか!」ではあるけれど、考えてみたら、絶対に無いと誰に断言できよう? たった1人で (あるいは稼働には最低2人は必要だと聞いた事があるので、たった2人も居れば) 世界を一瞬のうちに破壊してしまえるほどの恐ろしい力を所持しているのは事実なのだから。まったく私たち人間ときたら、常軌を逸していなくったって充分クレイジーだ。頭がどうにかしている。いつ滅びてもおかしくはない世界にいるのだと一瞬思って身震いした。自分に言い聞かせるように「まさかまさか」。氏に愛する人が居ますようにと願った。心から愛する人がこの世にいれば、世界を破壊しようだなんて思うはずがない。考えが甘いだろうか。

何はともあれ、騒ぎの一つもなく取り敢えず事なきを得た。

 

新大統領のバイデン氏は愛妻家のようだ。今でも氏はバイデン夫人に恋をしているのです とラジオは報道する。たぐい稀な大統領かも知れない。

米国初の女性の副大統領ハリス氏は、その母親に、「初の女性」を目指すよりも、「最後の女性」にならぬよう尽力する事の方が大切だと教えられたと言う。副大統領の任務以外にも、新しい女性史の伝達と継続というミッションを担っている。新しい時代の予感。ニュースでは、彼女が黒人の家系をルーツに持っていることにも焦点が当たった。

 

この黒人という言葉であるけれど、聞くたびに疑問に思う事がある。アフリカからの移民を多く受け入れたフランスも、褐色の肌の人口は多い。彼らの多くはレッキとしたフランス人だ。私の周囲にもそんな知人友人が数人いる。一体彼らは自分達がノワール (黒人) と色で呼ばれる事に対してどう感じるのだろう?差別だと感じるのか、目に映る身体的特徴の形容だと割り切っているのか。

カリブ海に浮かぶ南の島に先祖を持つ友人クリステルは気さくな性格で、いつか食事の席で、自分達のことをなんの躊躇も含意もなく堂々とノワールと総称していた気がする。それでも、私が彼らの前でノワールと呼ぶ必要のある時は少なからずためらいがある。

同じ「黒人」と言うのにも、従来のフランス語のノワールを使う人もいれば、英語でブラックと表現する人もいる。どちらも結局は同じ「黒」に違いないのだけれど、後者の方がフランスの人間にとっては僅かに間接的で聞こえがいいような印象もある。ルックスを否定する訳にもいかないから、肌の色がその人の一番目に付く特徴であるのなら、それを形容しても失礼には当たらないかな?と思うけれど、そこに歴史的背景やら色のシンボル性やらが入り込むからややこしい。

そのうちチャンスがあれば誰かに本音を聞いてみたいと思っている。それまで、取り敢えず私はゲンズブールの真似をしてコーヒー色 (couleur café) とでも呼ぶことにしようかな。

 

夜半過ぎ。

それにしても外は驚くほどの強風だ。

雲も埃も吹き飛ばされて、明日はピカピカの日になるだろうか。