Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Aparté

今日は土曜日。

 

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いつもなら週末の朝は息子のマテマティックの勉強に付き合ってくれるエディーが来るのだけれど、今日から学校は春休みなのでプティット・ポーズ(petite pause 小休止) を取ることにした。

エディーと言えば、知り合いが働いている斡旋業者に紹介してもらい、彼が初めて電話をかけてきた日のことをよく覚えている。

電話口の彼は礼儀正しく控えめな口調で、私は初めて聞くその声や話し方からどんな青年なのか想像を巡らせた。冷静で律儀なタイプの人だろうという印象を受けた。家に来てもらう初日の日時など事務的な事を一通り決め、ついでにどうして外部の人に頼むに至ったか、こちらの経緯を手短に話した。

 

息子はマテマティックがとにかく苦手で、今まではずっと私がみてきた訳なんですが

ダコー(なるほど)

相手が親だと息子にも甘えがあってなかなか本気にならなかったり

ウイ

何度教えても同じ間違えを繰り返すので、こちらもさすがにイライラして口調が厳しくなったり、長時間ずーっと付きっきりで手が離せないので、並行して食事の準備をしては何度もキッチンの鍋を焦がしたりしているのです

ジュコンポン(分かります)

学校からはどうにかせよと圧力がかかるし、夫はマテマティックが得意なんですが、残念ながら子供目線に合わせるのが苦手な人で、息子はパパに勉強を観てもらいたがらず

ジュヴォワ (I see)

もう一つには、私はジャポネーズで息子とは普段は日本語で話しているんですが

(ここで電話回線がジジジーっと乱れた) アロ?(もしもし) 聞こえますか?

ウイ、ジュヴゾントン (聞こえます)

私達の普段の会話は日本語なんですが、マテマティックというのも一つの言語なので、最近はフランス語で説明するようにしているんですけど、途中で日本語が入ってしまったり、証明問題や演習問題にもなると、私もフランス語で正しくはどう答えるのか知りたいくらいなんです!

ウイ、ジュコンポン、パ・ドゥ・プロブレム!(no problem !) 

 

面白いことに、ネットの回線の乱れや電話の繋がりの悪い時に、ふと、会話相手の口にしていない言葉が聞こえる気がすることが今までに何度かあった。いわゆる空耳というものだろうか。

エディーとの会話では、私が日本人だと告げた瞬間に電話回線が乱れ、途切れたノイズと同時に急に甲高い声で「ユッピー!!」(やったぁー!)と聞こえたような気がした。さっきまでの礼儀正しさとは打って変わって、拍子抜けするほど砕けた調子だ。あれ?急にどうしたのかな?と思ってアロ?(もしもし?) と聞き返すと、先程までと同じ冷静な調子でウイと返事が戻ってきた。回線の乱れも元に戻った。どうやら聞き違いのようだった。今耳にしたのは一体何だったんだろう?と思ったけれど、あまり気にせず話を進めた。それでもなんとなく、ひょっとしたら日本好きな人かも知れないという予感がした。

 

その後つつがなく初日の対面が済んで、確か3度目くらいに彼が教えに来た日のこと。何を思ったか帰りがてらの玄関で急に「ゲンカイヲコエル」というのはどういう意味ですか?と聞くので、突然出た日本語に耳を疑って思わず聞き返してしまった。「ゲンカイヲコエル。意味は何ですか?さっき息子さんに聞いたら、知らないそうなので」と言うから笑ってしまった。

限界を超える。どこでそんな言葉を覚えたのかと尋ねると、実はマンガから入って日本語に興味を持っているのだと答える。やっぱりあのユッピー!は心の声だったようだ。

パリに近頃開店した Maison de Mochi という店で息子の好きな大福を買ったら、次回はエディーにも味見させてあげようね と息子と話した。「モチ」はマンガによく出てくるので知っているけれど、まだ食べたことがないそうだから。

 

彼のマテマティックの教え方だけれど、どこをつついても苦手の塊である息子に対して、教科書の正しいページをめくるだけでシュペー!( Great ! ) と褒めている声が隣の部屋まで聞こえてきた。苦笑してしまったと同時に、メルシー!と心の中で叫んだ。

 

今日はエディーは来ないと告げると、勉強せずに済んで喜ぶかと思ったら、息子は少しがっかりさえした様子。今までは、学校の先生も、世話をしたり教えてくれる人間もママを含めて女性ばかりだったけれど、大きくなるにつれて今度はだんだん男同士のほうが楽になっていくんだろうな という気がしている。そして、そのうちママンなんて爪弾きにされる日がやって来るのだろう。その日まで、今のうちにせっせと可愛がっておこうと改めて思うようになったこの頃だ。