Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Mariage à trois

春のマリアージュ 其の一

 

f:id:Mihoy:20210421110642j:image

 

土曜はよく晴れてマリアージュ日和だった。

ピエールとアデルの結婚式に参列するためにワンピースに腕を通し、ピアスを付けようとしたら針が通らない。穴が塞がってしまったようだ。度重なるロックダウンとマスク着用生活に入ってから、考えてみたら耳飾りなんてほとんど着けていなかった。

結婚式と言っても、区役所で行われる極内輪のささやかなセレモニーで、天井から小さなシャンデリアのぶら下がった鏡張りの「誉の間」で、区長さんの立ち会いのもと2人が誓いを交わすというもの。

現在パリは極めて緩いとは言え3度目のロックダウンの最中なので、てっきり親族以外は招けないものと思っていた2人。結婚式の場合は例外的に招客が許されると前日になって知らされたようで、緊急に私達にもお呼びの電話がかかってきた次第だった。

世間がすっかり精彩を失っている中で、友人カップルのマリアージュの知らせはポッと一輪の明るい花が咲いたようだった。思えば、ちゃんと正装して出かけるのも久々。おめでたいお呼ばれは嬉しいものだ。

 

区役所でのセレモニーは、スーツの上にトリコロールの帯を肩からたすき掛けした区長のムッシューが取り仕切る。彼は新婦アデルの名前をアリスと言い間違えたりして、会場に和やかな笑いを呼んだ。

肝腎要のピエールの立会人は会場に20分も遅れて到着して、こんな機会にも遅れるなんてまったくラテンの国の人たちだと半ば呆れ、半ば感心。参列者のうちの1人、サミアだって、式の途中でコツコツとハイヒールのかかとを響かせながらニコニコして到着したくらいだ。とにかく、肩肘張らない明るいムードのセレモニーだと言えよう。

 

さて、区長氏は、まず新郎新婦の馴れ初めを手短にスピーチし、次に夫婦とは何たるやをユーモラスな調子で説き、最後に2人それぞれに結婚相手を承諾する意図を確認する。まず新婦に尋ね、アデルが明るく oui と応じ、次に新郎に尋ね、ピエールがしっかり oui と答えた。

最初に女性の意向から尋ねたのが新鮮だった。映画だったらここでまず新郎が yes と言い、次に新婦の番になって、急に彼女が踵を返して花嫁衣装のまま脱走したりするのだけれど、そういうドラマはもちろんなかった。

続いて、氏は参列者の中に異議を唱える人があるか尋ねる。しばらくの沈黙。と、ここでバーンと後ろの扉が開き、息を切らした顔面蒼白の男性が飛び込んで来て。。。といった劇的な展開もなく、沈黙は無事に沈黙のうちに終わった。

区長氏の合図で祝福の拍手を受けたカップルは、まるで唇で捺印するかのようにチュッとキスをして、指輪を交換し、お終いに契約書に順番にサインをする。これにてめでたくマリアージュの成立だ。

 

ピエールとアデルには既に子供が2人いる。微笑ましかったのは、まだ小さい末っ子の男の子が式の間中ずっと2人の間に座っていたことだ。式の後、両親を見上げて「ボクもママンとパパと結婚したんだよ!」と言って周囲をどっと笑わせてくれた。首元の蝶ネクタイがこまっしゃくれて可愛い。

子供の目の前で両親が結婚するのは、なかなか素敵だなと思う。そういった結婚式に招かれたのはこれで少なくとも3度目くらいなので、息子は「ママとパパが結婚した時、ボクはまだ産まれていなかったんだよね?」と、知ってはいるつもりだけれどという調子で私達に確認を求めてきた。産まれていなかったどころか、まだ影も形もなかったぞ と夫が笑うと、息子は残念そうにしていた。

そういえば日本には「できちゃった婚」というあまり誉高くないニュアンスの言い方があるけれど、こちらでは堂々と胸を張って「すっかり育ちました婚」が幅を利かせている訳なのだ。

 

次のカップルの式の時間が押しているというので、私達は会場をそそくさと後にして、幸せな新郎新婦のアパルトマンに祝福の場を移したのだった。