Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Green monster

ああもどかしや。

 

f:id:Mihoy:20210609170720j:image

 

すぐ下の階に住む隣人の庭のサクランボが、日に日に赤く色付いていくのである。2階に住む私達の窓から手を伸ばせば、ちょうど届くに違いない高さなのである。

 

初夏と呼ぶに相応しい爽やかな今朝、客室の東側の窓のカーテンをさーっと開けると、真正面にちょうど赤珊瑚のようなツヤツヤのサクランボがの実が顔を覗かせた。ステキなグリーンモンスターが、ふさふさの緑の腕をこちらに差し伸べて、「さあ、今が食べ頃ですよ」と言っているようで、なんとも魅力的な光景なのだ。

 

ところが、例によって私達の古いアパルトマンは、窓も幾つかガタがきていて「開かずのショーウィンドウ」と化している。客室の南側の窓はちゃんと機能するので、東側の開かずの窓は修理もせずにそのままになっているのだ。

毎朝カーテンを開けて、その東のショーウィンドウ越しに立派なグリーンモンスターの姿を眺める。去年、彼の腕はこんなに長くなかったのに、一年で成長して一回り大きくなったのだ。「やあ、おはよう!」と人懐っこく2階の窓に挨拶の手を伸ばしているのに、贈り物まで差し出しているというのに、私ときたら、不本意にも流行りのソーシャルディスタンスを保たざるを得ないのである。

 

下の階の隣人ファミリーとは、アフリカ系の寡黙なフランス人男性と、それとは対照的に、肌が紙のように真っ白でアクセントのあるフランス語を話すドイツ人女性のカップルだ。2人の間には、チリチリの長髪がなんともキュートな、カフェオレの肌のまだ小さな男の子が1人いる。小学生にもならないおチビちゃんだと言うのに、いつも自分の顔より大きなバスケットボールを抱えていて、庭で披露するドリブルがびっくりするほど上手い。

そんな隣人一家にとって、庭のグリーンモンスターの背は高すぎて、例え脚立を持ってきたところで満足にサクランボに手が届かない。結局、美味しそうな赤い実は、毎年すべて鳥たちの贅沢オヤツとなっているのだ。

 

買い物に出て、店先に初物のサクランボが並んでいるのを見る度に、本当は手に届く距離にあんなに実っているのになぁ と、もどかしく思うのだ。我が家の東の窓が開くのなら、2階から私が枝を揺すり、バスケットを持った隣人一家が下で待ち構えて、楽しくサクランボ狩りをするのになぁと思うのだ。

初夏の夢想。もどかしや もどかしや。