秋という季節に似合うもの、なぁんだ
それは、香水。
木々は淋しく葉を落とし、緑萌え花薫る季節が遠のくと、最後は残された想像力の出番となる。香水は想像の花園への招待状だ。空気は冷たく、湿り気もなく、秋は香りの輪郭を捉え愉しむのにおあつらえ向きの季節。
香水というものは、気に入ったものが本当に好みの香りであるか否か、数日経ってみないと分からないところが奥深いなと思う。
香水の香りは時間と共に変化する。調香師の施した仕掛けは、至極長い時間を経てから展開することもままある。それは、ちょっとしたショーのようなもの。彼らは香りのみならず時間も操るのだ。だから私は、出会ったその日に香水を買うことはない。一度だけ会った人を恋人に決めてしまえないのと似ている。
先日、パレ・ロワイヤルに近い香水店で、予期せず気になるパルファンに出会った。ムイエットに染み込ませ、バッグの内ポケットに仕舞っておいた。店のムッシュウが美しい字で端に書き留めてくれたから、その名を忘れることもない。
帰り道はバッグの中がほのかに香った。時々取り出して嗅いでみては、変化を確かめる。それから、栞の代わりに読みかけの古本に挟んでおいた。
夜半、挟んでおいたことを忘れて本を開くと、夜咲く月下美人の花のように香りも開く。香りを正確に評価するには、この、一度忘れてみるという行為も有意義だ。
間違いない。この香りは好みの香り。3日経ってみても依然惹かれる香り。
遠く暖かい国に咲くバラと、仄かなスパイスの香りがする。