青の時代
春が来て、放ったらかしの私のバルコニーにボリジの花が咲いた。
先月、土の中から赤ちゃんの手首くらいの太さの茎が逞しく伸びて、おやおやと思って観察していたら、産毛で覆われた葉を四方に勢いよく広げはじめ、そのうち、冠のような要領で頂きに蕾がたくさん出現した。
そして、今朝そっと覗いてみると、星形の可憐な花がいくつも開花していた。ピンクを少し溶かしたなような神秘的なブルー。そこに朝日が当たると、ほとんど神々しいくらいだ。心の中でそっと手を叩いて小躍りする。植物というのは極めて静かな生き物だから、驚かせないように、私もそっと静かに愛でる。
見ている目の前で、芽を出したり、葉を広げたり、花を咲かせたりというあからさまな「行為」を示さないのが、慎ましやかな植物達の神秘的なところだ。昨日見た時には何もなかったのが、今朝には、魔法のステッキを一振りしたように鮮やかな花を咲かせている。シャワーを浴び、朝食を済ませ、太陽がだいぶ昇った頃にもう一度覗きに行くと、いつの間にかもうひと花咲いている。人間よりも速い時間に生きているのか、それとも、ゆっくりな時間の中に存在しているのか、どちらとも言い難いところが彼らの不思議なところ。惹かれるところだ。
ところで、最近私は、自分の名が、苗字も名前も合わせて実に植物的であることに今更のように気が付いた。おそらく、私の両親だって、そんなことは殊更意識していなかったのではあるまいか。意訳を与えると、まさに「野に揺れる小さな花」のようなビジョンだ。運命的な名前をもらったものだと思う。
ボリジは勇気を与えるハーブと称えられ、十字軍遠征の際には、ワインにこの花を浮かべて飲んだという逸話があるそうだ。和名はルリ(瑠璃)ジサと言うらしい。
訳あって、青という色にとても魅了されるこの頃。バルコニーにブルーの花が咲いたのも、「青の時代」を生きている今の私にとって必然のような気がしている。