Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Son jardin extraordinaire

キャロリーヌの不思議な庭

 

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今日、新しい花の名前をひとつ覚えた。

 

東京の友人がお茶の稽古の時に撮ったという写真に、床の間に活けられた青い花が写っていた。アガパンサスというのだそうだ。

花言葉は、「恋の訪れ」なのだとか。

ハッとした。

ちょうど数日前に、キャロリーヌの庭でよく似た花を目にしたばかり。どこの鳥が種を運んで来たのか、名前さえ知らないと彼女が話していた花だ。

さっそくキャロリーヌに教えてあげようと思って調べると、フランス語でも名前は同じくAgapanthus。ただし、「青、あるいは白い花を咲かせる」とある。

彼女の庭に誇らしげに咲いていたのは、青でも白でもなく、オレンジがかった派手なピンク色の花だった。フリージアにも似ていたから、2種の掛け合わせなのかも知れない。堂々と腰の高さまであって、観賞植物然りといった姿で目を惹いた。生活に困ったら花売りになれるね と冗談を言って、一緒に高らかに笑った。こんな華やかな植物がどこからともなく現れるなんて、まったく素敵な庭だと思った。

 

その庭には、上品な桃色の、驚くほど巨大なケシの花も風に揺れていた。そんな色のケシに私は今までお目にかかったことがない。ケシではないのかも知れない。当のキャロリーヌも、他所では見たことがないと首を傾げる。やはり放っておいたら自然に生えてきたのだと言う。まったく羨ましい庭だと思った。

 

別の一角には、ワインレッドの牡丹も艶やかに盛りを迎えていた。こちらは野生ではなく、株を植えたと言う。毎年、花が散ると葉も次々に落ちて、茎まで溶けるようにして忽然と消えてしまうのだそうだ。ところが、春が訪れると、なにも無い所から再び姿を現すと言う。にょきにょきと茎が伸び、パッパッと葉が出て、やがてふんわりと優雅に大輪の花を咲かせるのだ。消滅と復活を繰り返す牡丹。まったく不思議な庭だと思った。

 

キャロリーヌは足元の石畳の隙間に生えていた濃い緑の雑草を引っこ抜いて、その葉をちぎり、鮮やかなオレンジ色の液汁が出るのを見せてくれた。イボに効く薬になるのだとか。名前は忘れてしまったけれど、その滴る汁の色といい、薬効といい、魔女の常備薬になりそうな草だ。まったく未知の庭だと思った。

 

そして、キャロリーヌには今、恋人がいる。

運命的な出会いの後、多くの迷いを経て、別れと苦悩を経験した。そうやって、魂が共鳴する相手との恋を突き通した現在、彼女はその魔法の庭でその人と過ごす日々を迎えている。ピンクのアガパンサスの咲く庭に、まさに恋が訪れたのだ。その尋常ならぬ花の色は、尋常ならぬ恋の訪れを物語っているのに違いない。

どこからともなくその庭に姿を現した花の名前と、その花言葉。

キャロリーヌに教えてあげなくちゃ。