明け方に雨がどっさり降った。
豪華に雷も鳴った。遮光カーテンを突き抜けて、稲光が何度も寝室の白い壁を照らしたので、さすがの私も目が覚めてしまった。空があんまり号泣するので、気が付かずにはいられなかったという具合。時計を見るとまだ5時。
もうひと眠りして起きると、雨は止んでいたけれど空は相変わらずご機嫌斜め。朝ごはんを用意して、息子を起こし、学校に送り出し、台所の片付けを済ませる。お茶を淹れて一息付く頃には晴れ間が出て、遅かれながら鳥が鳴き始めた。スズメが窓の庇の上に巣を作ったので、毎朝賑やかだ。バルコニーの緑は、明け方の雨に嬉々として瑞々しい。
雨がどっさり降ったということは、すなわち、我が家の居間の天井もたっぷり雨漏りするということだ。少なくとも、つい数日前までは間違い無くそういう仕組みだった。
ところがどうした訳か、今日はバケツの中にポタンポタンと有るか無いかの量しか落ちてこない。これはいかに?
数日前にやって来た業者は、天井にギコギコと穴を開けて中を覗き、錆びついてちょん切れた管が剥き出しになっているのを発見した。どこを伝って来るのか判別のつかない雨水が、その管から漏れているところまでは突き止めた。
私達の住むアパルトマンは1930年代初頭の建造物で、人間にすると90歳のおじいさん。パリのオスマン様式建造物は19世紀のものも多いので、それに比べるとまだジュニア級のシニアだ。住宅に改装される以前は、製薬会社のオフィス兼研究所だった。アールデコスタイルの外装には手を付けず、内装だけを大々的に改装したので、天井や床に古い管やら何やらが無数に残っているらしい。
おととい、今度は別の業者がやって来て、問題の錆びついた管がどこを走っているのか、出所を確かめて見せます と胸を張った。上の階のイザベル一家の壁に散々穴を開けてみたけれど、結局探しているものは見つからなかった。
次に、イザベル一家のベランダに大量に水を流してみたけれど、我らが天井はうんともすんとも言わなかった。こうなったらもう床をひっぺがして、その下を見るしかないと言い出したところ、イザベルとベルトランが悲鳴をあげて「ちょっと待った!」をかけたので、調査は断続されて今日に至っている。彼らの悲鳴は無理もない。散々荒らした末に、何も見つかりませんでした と平然と言われる可能性もあるのだから。
私にしてみると、業者の専門が細分化されているのが歯痒い。非常にフランスらしい点だ。一社を呼んでも二社を呼んでもなかなか解決に繋がらない。ちょこっとだけ仕事をして、残りは「我々の持ち分ではありません」となる。当てにならない。どうしたものか。
よし、こうなったら、もう私が個人的に調査を進めてしまおう!と思い立った。水源を探すくらいなら、きっと出来るに違いない。事件を前に、遅々とした警察の仕事ぶりに痺れを切らした探偵が調査に乗り出す気分だ。名探偵かどうかは知らないけれど、やってみる甲斐はある。このまま腕組みしてひたすら待っている訳にもいかない。
かくして、にわか迷探偵は、大きなバケツを片手にアパルトマンの最上階に乗り出したのだった。さて、その活躍やいかに。。。?