Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Une poche, deux poche, trois proche

今朝、カフェで、着古した愛着のあるコートを脱ごうとした時、その胸のところに実は内ポケットが付いていたことを今更のように発見した。

Ça alors ! (なんてこと!)

f:id:Mihoy:20191128173814j:image

子供の頃、父の背広やコートなんかに付いている内ポケットにそれはそれは憧れた。男性が袂にさっと手を滑らせて、そこからスマートに何やら出してくる姿には、昔も今もちょっと心惹かれるものがある。そんな所から一体何が出てくるのか、ささやかな手品みたいだと思う。出てくる品が年季の入った万年筆だったりすると、なおさら素敵だ。どうして女性の上着には、そんなすてきな内ポケットが付いていないのだろう と、子供心に残念に思ったものだ。

ポケットといえば、

小さい頃、家族旅行の折などに、不意な寒さに見舞われて父のコートを借り、ダブダブのそれを羽織ってポケットに手を突っ込むと、コインとか、ペンギンの模様のミントのチューイングガムとか、色々なものが入っていた。出張先のイギリスで買ったという、父のモスグリーンのトレンチコートは私のお気に入りで、大学生になってからは時々父の洋服棚から失敬して着ていた。外にも内にも使いやすいポケットがあるのが気に入っていた。内ポケットの中には時々名刺やペンが忍んでいたっけ。

一方、母に借りた上着のポケットに手を入れると、指先に当たるのは、うっすらと香りの付いた柔らかい刺繍入りハンカチなどだった。それ以外の雑多なものを探り当てたことは、あまりなかった気がする。

 

フランス人の夫の内ポケットの中身は、 carte d'identité (身分証明書)や、メトロやパーキングのチケット、そしてブリッケ(ライター)などだ。この身分証明書には、顔写真と生年月日のみならず、目の色、髪の色、身長などが記載されている。夫が上着の内ポケットの底を探る時は、その間口に対して手が大きいので決して滑らかにはいかない。種明かしの要領で、袂の内側を観音開きの扉の片方を開けるように大きく広げ、いかにも取り出し辛そうにゴソゴソと指を突っ込む姿を目にする度に、この人はどう転んでも手品師にはなれないだろうな と可笑しい。(幸い、本人も手品師になる気なんてさらさらないのだけれど。)

 

私のポケットの中身はと言うと、夫と同様にあまり色気がなく、フランスでお決まりの厚手のポケットティッシュ(mouchoir) と、使用済みのメトロの切符が常連客だ。前者は、これを使って人目も憚らずにチーンと鼻をかむのに欠かせない。(そこのところは、長年暮らしてすっかりフランス流が板についた。)

後者は、パリのメトロは使用済みの切符を下車する時に回収しないシステムなので、どうしてもこれがポケットに溜まっていくという訳だ。

 

ポケットをたたくとビスケットがひとつ という歌をご存知だろうか。子供の頃、ピアノ教室で習って、なんて楽しい歌だろうと思った。ポケットをたたくたびにビスケットが増える。

そう、ポケットは便利で、そして楽しい。

何かを所持して歩くというのは、人間独特のアーティスティックな行為だから、これは一つの立派なカルチャーだ。

 

今朝発見した私のコートの内ポケット。何を忍ばせよう?

内ポケットの中身は心臓の音を聞くのだから、何か大切なものをこっそりしまっておきたい。