Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Aimez-vous Chopin...

ここのところパリは大雨の日が続いた。

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私たちは古いアパルトマンに住んでいる。1930年代の建築物で、赤いひさしの付いたアールデコスタイルの外観は、市の歴史的建造物として指定されているらしい。

もちろん内装は時代と共に幾度か改装されてはいるのだけれど、建物自体が古いので、その負の恩恵に預かることがままある。

 

例えば、造りの複雑な台所は、入居以来何度も水道管が詰まって、料理人(私)を悩ませた。網目の細かいザルを流しに当てて洗い物をしてみても、やはり詰まる。水道管工事のムッシュが言うには、「お宅の水道管はねぇ、細くて、傾斜が少なくて、曲がりくねって、長いので、油ものを洗うだけで詰まるんですよ。泥付き野菜?そんなもんはもってのほか。たらいで洗って、水はトイレに流さないとネぇ」ご冗談でしょう!と笑ったら、ジョークではないと返された。これにはお手上げ。とうとう改装するしかないということになり、春に始まって、夏を通り越し、秋まで長引いた工事 (ここはフランス) の末、ようやく水道管開通に至った。

水がさらさらが流れるお台所って快適!と皿洗いしながら鼻歌を歌っていたら、今度は冬の到来と共に、暖房が効かないのに気がついた。やれやれ。

我が家の暖房は、床下のパイプに温水を流して暖めるタイプの旧式床暖房。目立った暖房装置もないのに部屋がちょうど良い具合に暖まり、空気も乾燥しないので気に入っていた。もちろん、ちゃんと稼働すれば の話しであるが。

近所の電気屋はこの時期引っ張りだこで、修理を頼もうにもなかなか捕まらない。やっとランデブーが取れても、故障の原因が分からない。デパナージュに来たのは見習いの若い青年だったので、経験豊かなパトロンを呼び直すが、それでもやはり修理には至らない。シミひとつなかった壁に、無惨にもノコギリでぎこぎこ四角い穴を開け、中に配された管も調べてみたけれど、どこにも異常が見当たらない とのたまう。それでも、出張費と作業費だけはしっかり取って帰って行った。やれやれ。

そうこうしているうちに本格的な寒さが到来し、とうとう朝晩の気温がゼロ度を下回るようになった。

地下のカーヴ(物置き)でホコリを被っていたブイヨット(湯たんぽ)をひっぱり出してきて、家の中で羽布団にくるまって過ごす日々。毎日長々とお風呂に浸かり、夕ご飯は毎晩スープ。こう寒くては、友達も家に誘えたものではない。

ところが、打つ手が無いと言われて一念発起した夫が、インターネットで湯沸かし装置の仕組みを調べ、付属の温度調節器をリセットしてみたところ、ノコギリどころか、ねじ回しひとつ使うことなく、あっけなく直ってしまった。

何はともあれ、これで一件、いや、二件落着。一年の終わり良ければ全て良し。寒い冬に家の中が暖かなのは、なんて幸せなことかしら!これで、友達を呼んで年越しフェット(パーティー)もできる。と思っていた矢先・・・

 

暖房がめでたく回復した実に翌朝のこと。外はまるで空から川が流れているようなどしゃ降り。夫と息子を送り出し、排水管の問題のなくなった台所でサクサクと朝食の後片付けをしていると、ふと水滴の音に気がついた。ぽちゃん ぴちゃん。流しの蛇口の栓だろうかと思って見るけれど、しっかり閉まっている。ぴちゃん ぽちゃん。その水音は、水気のないはずのサロンのほうから来ていた。音源を辿ると、なんと、窓辺の天井からひっきりなしに水滴がしたたり落ちてくるではないか!

ひとつ済んだと思ったら、間髪を入れずにすぐさま次がやってくる。あまりに見事なタイミングに、呆れかえって苦笑するしかなかった。これはもう正に、コメディーと呼ばずになんと呼べよう。

パリの街は先日から長期グレーブ(ストライキ)に突入して、メトロも電車も動かない。このまま2週間、ノエルのヴァカンスまでずっと麻痺状態が続くかも知れない。そんな時に、修理屋も保険会社も、頼んだところで来てくれるはずがない。

こんな時は、開き直って悠長に過ごす他に方法はない。外は雨。お気に入りのティーセットで温かいお茶を淹れ、サロンのソファーに身を沈めて、雨漏れついでにショパンの雨だれでも聴きながらしっとり過ごすとしよう。よいお湿りですね なんて言葉もあるではないか。我らのアパルトマンは、問題を一つ解決しようものなら、すぐさま次なるものが来る仕組みになっているらしいから、ことさら解決を急がなくともいいではないか という気さえしてくる。