Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Mettez vous vos baskets

若者よ

スニーカーの紐を結い 

街に出よ

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公共交通機関の大々的なグレーブ(ストライキ)が始まってから、もうすぐ2週間が経とうとしている。どうやら、記録を塗り替える長期戦になりそうだ。

パリの街は電車もメトロも走っていない。運がよければ見かけるバスは本数が極端に少なく、まさにギュウギュウに張り裂けそうな腸詰め状態。うまく乗り込めたところで、遅々として進みはしない。車に乗ってみたところで渋滞が凄まじく、ようやく目的地に着くと今度は駐車する場所が見つからない。タクシーなんぞ利用するのはもってのほかで、乗車料金をここぞとばかりに引き上げている。車の間を縫う自転車とスクーターが急増し、小さな事故が絶えない。こんな時、一番頼りになるのは足だ。幸いなことにパリの町は小さい。

 

いつものように、台所で朝食の片付けをしながらラジオをつける。ところが、いつも聞いているラジオ局もストライキで、聞こえてくるのは当たり障りのない歌謡曲のみ。別の局に合わせてニュースを聞く。主だった内容は勿論ストライキのこと。この度新たに石油精製場もストライキに入るとか何とか。ストライキは、あくびのように伝染するものらしい。とにかくどこもかしこもまさにストライキ一色だ。

 

そして注目すべきは、もうすぐやってくる冬のヴァカンスの大移動。フランス人にとってノエルは伝統的な家族行事であるから、本来ならば今週末から帰省ラッシュで民族大移動が始まる。ところが足となる長距離電車も走っていない。それどころか、年末年始もストライキ続行の見込みがでてきている。駅でラジオのインタビューを受けた人達は口々に、仕方がない、できる範囲の移動をするしかない、などと、日本人の目からみると驚異的なくらい理解があるというか、悠長というか、普段のフランス人像に似つかわず、ポジティブなニュアンスさえ滲む反応を示している。寒くて、雨で、待たされ、歩かされ、踏んだり蹴ったりだと散々文句を並べるかと思いきや、さにあらず。フランスの人達は、一般的にストライキを起こしている側の肩を持っているようだ。

 

人災は肩をすくめてやり過ごし、天災には憤慨するフランスの人たち。かたや、天災は仕方なしと甘受し、人災には憤る日本の人たち。どちらの方が全うか。

 

雄弁は銀、沈黙は金 なんて言葉はきっとこの国フランスでは存在しないのだろう。間違っていようが、人に迷惑がかかろうが、とにかく「主張すること」に意味を見出す国民性。もの言わぬもの存在せず。我、主張する、ゆえ我あり と言ったところか。

逆にいうと、フランスは人権尊重の国。猫も杓子も門外漢も、口を開いたことによって愚か者扱いされることはない。誰にも彼にも、何についても、表明する「権利」がある。これぞ、まさにデモクラシーの真髄。

 

それに比べると、日本はアリストクラシーの部類に入るのだろう。もの知らざる者、口を慎むべし といった風潮がある。どちらが良いかは一長一短、お好み次第。

親を選んで生まれてはこれないように、自分が生まれて来る国というのは選択できない。地球人は、誰しも成人してから各自の尺度でもって、自分の住みたい国を選んで住めるシステムであればいいのに と思う。

 

テレビをつければ、辛口なことで有名な女性ジャーナリストが、ストライキを起こしている労働組合の代表者を招いてインタビューしている。年末年始まで「政府が耳を貸さない限りはグレーブを続行します」と述べる、そのお髭のムッシュに、「応援しています。引き続き Bon courage ! (頑張ってください!)」と励ましの言葉で締め括っているのには、目から鱗が落ちた。

家から離れた学校に通う子供達も、通勤する大人達も、商売人も観光客も、すでに多大な被害を被っている。関係のない人達を人質にするような手法のストライキは、個人的にはいかがなものかと首を捻ってしまうのだけれど。

 

性格的に私よりもどこか日本人的なところのある夫でさえ、グレーブはフランスという国の歴史の中で育まれた然るべき行為 と評価し、理解を示している。ノエルに果たして帰省のための電車が動くかどうかについては、「大丈夫だろ。その時期まで続行すると、いくらなんでも不評を買うから、彼らもそんな事はしないだろうよ」と余裕の構え。

 

友人イザベルからは、私が日本人である事を意識してか、「こんな状態のフランス、情けないわ!」というSMSが届く。ストライキに対してネガティヴな感想を漏らす少数派の彼女は、海外在住経験が長く、生粋のフランス人魂のようなものは持っていない人だ。次の海外移住は、ぜひストライキの希な日本に!と返しておいた。

 

そういえば、昔、東京のアテネフランスという語学教室でフランス語を習い始めたばかりの頃、グレーブでメトロが止まっているというシチュエーションと共に Raz le bol ! (ボールが溢れそう/ もううんざり!) というフレーズが教科書に載っていたっけ。あの頃は、グレーブというものが今ひとつピンと来なかったけれど。

 

グレーブの日は、できることなら、なるべく家から遠ざからずに過ごすのが一番良さそうだ。外出を諦め、家の中を整えて、ねっころがって長々と本でも読めるのなら、これ以上の読書日和もなかなかないのかも知れない。

 

そうは言っても、仕事や学校や約束があったりすると、なかなかそうもいかない。

先週は町中を散々歩いたついでに、品の良いムッシュが接客してくれるショコラティエ、オープンしたてのピカピカに新しいカフェ、センスの良いショーウィンドウの花屋、ひょんな所にあるオーガニックショップや、和食のお弁当屋などを発見した。

その上、毎日歩いて日ごろの運動不足も解消!と、グレーブのとばっちりをポジティブに受け止められるようになれば、あなたはもう一端のフランス人?!