Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Mon petit écrivain

台所で料理をしていると、「ママ見て!」と息子が一枚の紙を手にやって来た。

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学校で使う方眼紙に、何やらつらつらと書き付けてある。料理をする手を休めず、それはなぁに?と聞いてもニヤニヤするだけで答えない。

その代わりに「読んで!」とだけ言って、つっけんどんに紙を差し出す。まるで、口ベタな小学生が好きな子にラブレターを差し出すような具合だ。何やらサプライズのつもりらしい。

 

目を通すと、レイモン・クノー (映画にもなった知る人ぞ知る「地下鉄のザジ」の著者) の Exercices de style の真似をして続きを書いたものだった。 日本語でも「文体練習」というタイトルで翻訳本が出ているが、とある1日のとある場所のとある短い出来事を、何十通りもの視点や文章スタイルで表すという、奇抜でユーモラスな作品である。

 

書くという行為は好きなのだけれど、描写したり表現したりという作業がいまいち得意でない息子に私が渡した本だ。いつかソルボンヌのリテラチュールの授業でこの作品が取り上げられて、授業の後そのまま本屋に駆け込んで手に入れた文庫本だ。子供向きの本ではないので放り出すかな?と思ったら、予想以上にすっかり気に入って、時々パパにせがんで音読してもらっている。

そして、読んでいるうちにその続きを書いてみたくなったという次第らしい。あどけないながらも彼らしく書けていて微笑ましい。

 

「ママがあなたの年齢の時の将来の夢は何だったか知ってる?」と聞くと、少し考え込んでから「エクリヴェンヌ?」と返ってきた。以前話したことがあるのをちゃんと覚えていたらしい。その上、男女を問わず一般的に使われる「作家」の男性形 ”エクリヴァン (écrivain) “ ではなく、フェミニスト運動の盛んな近年になってようやく一部で定着し始めた女性形の “エクリヴェンヌ (écrivaine)” と答えてきたところに、我が息子ながらちょっと感心した。 

 

原稿を返しながら、我が家のちっちゃなエクリヴァン誕生ね、と褒めると照れ笑いした。