Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Les trois pions solitaires

私達は3人とも転機を迎えているのだと思う。

f:id:Mihoy:20200615075749j:image

 

久々に、仲良し3人組で夜のカフェテラスに集った。前回この顔ぶれで集まったのは確かロックダウンの前、2月の終わり頃。

久々に話たいこと聞きたいことが山とあるの私達なので、席に着いた途端、メニューに目を通すのも忘れて話し込み始めた。ギャルソンが注文を取りに来て、肌寒いので咄嗟にリンデン・ティー! (菩提樹のお茶) と叫ぶと、モワオッシー!モワオッシー!(moi aussi 私も!) と後の2人も同じものを頼んだ。いつもならワインなのに、ハーブティーだなんて、今夜の私達は大人しい良い子ちゃんねと笑い合った。どのみち、ポスト・ロックダウンの規制でカフェテラスの閉店は22時と決まっているから (店内のほうはまだ再開されていない)、家事をようやく終えてから集まった私達に、のんびり酔っ払っている時間は無さそうだ。

 

キャロリーヌの恋は順調に進行形のようだ。ただし、今まで連れ添ったパートナーを不幸な立場に置いたまま去る訳にはいかないので、新たな進展を見せるのに時間がかかっている。複雑な状況だ。前回彼女と2人で会った時、この恋をどう思う?どうするべきだと思う?と聞かれて、うまく答えられなかった。正直に、全然分からない、それはキャロだけが知っていることだと返事しておいた。私の周りには的確なアドバイスを与えるのが得意な頼もしい女性が数多く居るけれど、残念ながら私はそのカテゴリーには属さない。キャロリーヌは「応援しているよ!」と背中を押してくれるのを期待していたのだろうか?と思ってその表情を見たけれど、特にそういった様子もなく私の返事に頷いていた。けれどもその後、そのままアクセルを踏み続ける決心が付いたようだ。「たった一度の、自分の人生だもの」と。

 

私の友人達の中でも、一際人格のバランスが取れていて、天然の社交性があって、朗らかで安定している同郷人の友、ユキさんは、それにも関わらず去年のちょうど今頃、仕事でバーン・アウトなる状態に陥ってしまった。色々と辛い事が重なって、びっくりするほど意気消沈してしまった時期だった。どんなに明るくて情緒が安定していても、何があっても大丈夫な人というのは居ないのだなと思ったものだ。そして、どんなに慣れたつもりでいても、私達はやっぱり外国に暮らしているのだという特別なシチュエーションについても考えさせられた。

あれから一年が経ち、もともと人望があるユキさんはあちこちで助けを得て、ようやく心身ともに元気な姿に回復した。今、彼女は、トラウマを乗り越えて新しい仕事を探し始めている。

 

転機を迎えた時、本当の味方がよく分かる という話になって、キャロリーヌが pion solitaire (ピオン・ソリテール / ひとり駒) という言い方をしたのが耳に残った。彼女独特の表現なのだろうけれど、チェスゲームなどで単独行動を取る駒の意味だ。誰かの知り合いであるからとか、同じグループに属するからとか、そういう理由で仲良くしている人達ではなく、個人として気が合って親しくなった友、ピオン・ソリテール、のほうがいざという時に頼りになる と話して、うんうんと頷き合った。日本語で言えば、一匹オオカミ同士の友とでも言ったところだろうか。

一匹オオカミ。実はそれは、物心付いてからの私の人生の信条の一つであったりする。そこにはどうしても孤独な響きがあるけれど、キャロリーヌのお陰でピオン・ソリテールという洒落た単語に置き換えられそうだ。

 

時間に緩いフランスだから、カフェは22時を回っても閉まる気配がない。気が付くと30分も過ぎていて、大丈夫なのかとギャルソンに尋ねると、新たに来る人は受け付けられないけれど、すでに居るお客さんにはゆっくりしていってもらわなくちゃね とニッコリ。もうすぐこんな時間規制も解かれるだろうから、さっき通りかかったパトカーも素通りだった。

ポットに残ったリンデン・ティーはすっかり冷たくなり、私達の身体もいよいよ冷え始めたので、小銭を払い、 3人の「ひとり駒」は散り散りに家路に付いた。