Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

La confession

フランスに「秋晴れ」という言葉はないと書いたばかりだけれど、ここのところ晴れの日が続いている。

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まぁ、私は晴れ女ですから と、誰にということもなく、恩付けがましく思ってみたりする。でも本当のことだ。

 

息子の学校の新学期が始まり、夫も仕事に行き、数ヶ月ぶりにようやく1人になった。片付けなくてはならない家の中の「お仕事」が溜まりに溜まっているけれど、取り敢えずヴァカンスの後の報告会として、近所に住む友人キャロリーヌと朝のカフェを一杯取ることになった。家族で過ごしたヴァカンスの後は、やっぱりコピンヌ (copine / 女友達) だ。

 

私の南仏で過ごした四方山話しの後、キャロリーヌの話が始まる。人生のどんでん返しの時期を迎えている彼女の話は、まるで一編の映画のように面白い。

 

夫婦仲がギクシャクしていた折に素敵な人に巡り合ってしまった彼女は、長年の不調和を清算すべく、その人と新たな人生を歩み始めている。けれども、敬虔なカトリック信者である彼女の実家の家族、すなわち彼女の母親や兄弟達、にそんな近況を打ち明けられずにいた。

ヴァカンスも中盤に差し掛かった頃だろうか。実家で夏を過ごしていた彼女からSMSが届き、話そうにも気が進まずに切り出せずにいる との事だった。タイミングはきっと向こうからやってくるから、それまで無理せずにいたら?と返事をしておいた。その後、どうなったのだろうと気になっていた。

 

実に、タイミングは向こうからやってきたのだった。

ヴァカンスも終わりに差し掛かったある夜のこと。親族一同が総勢16人も集まったディナーの席で、最近の社会問題として偶然にも離婚が話題になり、いかにもカトリック的な、極めて批判的な議論が白熱したところで、黙って聞くに耐えられなくなったキャロリーヌが自らはち切れたのだった。

ドーンと激しくテーブルを叩いて立ち上がり、胸を詰まらせ、涙ながらに全てを打ち明け、あなた達には所詮理解できない事でしょうよ!と捨て台詞を叫んだ。集まっていた人達にとっては、まさに晴天の霹靂。夢にも思わなかった展開。呆気にとられてそれを見ていた家族の様子が、後日談にもなるとすっかりコミックで可笑しい。ご想像頂けるだろうか。アーメンのお祈りで始まる厳かで平和な食卓の風景が、一気に沸点に達する様子を。

 

ディナーの席でキャロリーヌの隣に座っていた義理のお姉さんは、「セ、セ、セパポッシーブル!セパポッシーブル!」(C'est, c'est, c'est pas possible ! / あ、あ、あり得ない!あり得ない!) と大声で叫んだっきり硬直して動けなくなり、ずっとそのセパポッシーブルをオウムのように繰り返した。普段からあまり波長の合わないタイプのお姉さんだったようだ。あまりにそれが煩いので、引っ込みの付かなくなった普段は極めて育ちの良いキャロリーヌが、ただならぬ熱に絆されて思わず「うるさい!」と叫んでしまう。それでまた「セパポッシーブル!!」と返ってくる始末。朝のカフェを啜りながら、キャロリーヌがその様子を真似して見せて、2人してお腹を抱えて笑った。

 

彼女と気の合う弟の反応はというと、目に涙さえ浮かべ、そんな悶々とした想いを抱えていた姉さんの様子に気付かなくて悪かった!と、ひしと肩を抱きしめてきたそうだ。いかにもフランス人らしいスキンコンタクトだ。まるで映画のワンシーンのようだったわよ!とキャロリーヌ自身が笑う。ところが、どうした訳かそれ以来彼とは音信が途絶えていると言う。「やっぱりショックだったのかも知れない」と呟くキャロリーヌ。

 

いい話だなと思ったのは、彼女のお母さんの反応だ。キャロリーヌは長年、彼女の実の母親と馬が合わなかった。お父さんっ子で、パパに贔屓され可愛がられていたキャロリーヌに、ママンがどこか嫉妬しているような節もあった。「パパ」が他界してしまってからは、会う頻度も落ちた。「ブルジョワ育ちでお堅いカトリックのママンは、絶対解ってくれるはずがない。それどころか、ショックで気絶するかも知れない!」と冗談まじりの本気で言っていたキャロリーヌ。けれども、そんなママンが意外にも、気絶するどころか、娘に対して初めてある種の理解を示したのだった。

その日から、彼女はママンと頻繁に腹を割って話すようになったようだ。今までになかったことだと言う。キャロリーヌが若かりし頃は理解し得なかったママンの苦悩や、迷いや、そんなあれこれも、今、親子としてというより、2人の女性として向き合って話せるようになったそうだ。和解。そんな言葉が浮かぶ。

人生、何がどう転ぶか分からないという事だろう。

 

さあ、映画はお終い。そろそろうちに帰って仕事を片付けなくちゃ。

再びマスクをし、ボンジュルネ!(bonne journée ! /Have a good day !) と手を振り合ってカフェを後にした。