Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

A la nuit automnale

子供の頃からなかなか眠らないタイプだ。

 

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入眠には全く時間を要さないのだけれど、夜の時間を何もせずに眠ってしまうのが惜しくてならない。だから、眠たい夜も無理やり起きている事が多い。

 

日がすっかり短くなり、夜が早く訪れるので、子供が寝静まって家事を終える頃にはすっかり夜中の気分だ。眠気に抗って本を読もうにも、フランス語の本はますます瞼が重くなるばかり。

こんな時、本当は誰かにお話をしてもらうのが一番なのだろう。小さい頃、夜な夜な本を読んでもらったように。あれは至福のひと時だったなと思う。大人になった今は、誰も枕元で語り聞かせてはくれない。残念なことだ。

 

重い瞼で長編小説は読めそうにない。何か適当な本はないかしらと探すと、小川洋子さんの短編集が出てきたので、それをめくってみた。そして、ある章の中で、「洋菓子の中には洋子さんが、和菓子の中には和子さんが隠れている」と知った。

 

私の母、和子さんは、和菓子をこよなく愛していた。誰かの所にお呼ばれした時なども、わざわざ遠くまで行って美味しい和菓子を見繕っては持参していたけれど、あのこだわりは文字通り「和子さん」のお裾分けだったのだ。多分、当の本人だって気付いていなかっただろうけれど、その手土産の中には「和子さん」が隠れんぼしていた訳だ。

洋子さんのお陰で、今頃になってそんな事に気が付いた。

 

ついでに、そんな和子さんがこの季節によく買ってきてくれた和菓子に、栗羊羹がある。斑入りの竹の皮に包まれた古風な平べったい羊羹で、黄色い満月のような栗がこっくりとした黒い餡に浮かんで、秋の夜長を形にしたような趣のあるお菓子だった。あれは思慮深い「和子さん」によく似合うお菓子だったなと、今更ながら思う。そして、こんなことを書いていたら、奇しくも今夜は中秋の名月だという。

 

秋の夜長に、洋子さんの本を片手に、時を経て小さな発見があった。