Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Ses beaux yeux

顔が半分しか見えないとなると、人の印象も変わるものだ。

 

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相手がよく知っている人であっても、その目の色や形や表情に改めて気付かされたりする。この人はこんな目をしていたんだっけ、と。

初対面の人であれば、あとの半分は想像するしかない。

残りの半分はどんな?

そんななぞなぞのようだ。

 

週末に息子を連れ、船がたくさん浮かぶセーヌ川のほとりの公園に行き、帰りは通りがかりのカフェに立ち寄った。

注文を取りに来た若いギャルソンの顔を何気なく見上げて、思わずハッとする。濃いまつげに縁取られ、まるでコラージュしたようなくっきりと意志のある美しい目。それを強調するように、きれいな長い弧を描く眉。髪をジェルで片側に撫で付け、一糸も乱れず、黒い服に丈の長い白いタブリエが映える。目が宝石のように輝いて、心憎いかな、残りの部分まで価値のあるものに見せている。黒い飾り気の無いドレスにこそ大粒のダイヤが似合うように。飲み物の注文を繰り返しているだけなのに、まるで大切なことを伝えているかのような美しさの目をしていたので、思わず真剣に聞き入って (見入って) は頷いた。こんな目をした人に口説かせようものなら、そのふた粒の光る黒曜石の暗示にかけられて、女の子たちはいとも簡単に恋に落ちてしまうに違いない。ずるい。

隠すというのは、裏を返すと、残された部分を強調する技になり得るのだと思い知った。

 

先日、家の近所でジョージア人のツィツィアとすれ違って立ち話になった時も、その瞳の緑に今更のように惚れ惚れした。彼女の特徴的な細い顎の曲線が隠れて初めて、その目の色の深さに気が付いた。ジョージアは緑多き国だと聞く。かの地の森もこんな色をしているのかしら と、うっとり想像した。

 

青い目、みどりの目、ハシバミ色の目。漆黒の瞳や、さし色の入った何色とも言い難い瞳。色気のある目、きりっと強気の目、優しそうな目に鋭い目。眠たい目もあれば、好奇心に輝く目も。この国で出会う人達は、目の表情がとても豊かだ。そう、目に力がある。その心の窓には様々な色のカーテンがかかっていて、東洋人としては目を奪われるばかり。目は口ほどにものを言う。いや、目は口以上にものを言う。

 

これを書いている今、気が付けばもう夜中過ぎ。

目に物言わせる時代、寝不足は禁物である。