Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Pour ou contre

年明け早々、木々はその枝先に春への期待を募らせている。

 

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近所に買い物に出るのにも手袋が手放せないこの頃だけれど、この冬はここ一番の暖冬だそうだ。

 

フランスではまず高齢者を優先にワクチン投与が始まった。ところが、どうしたものか隣国に比べて異例の遅々たるスピード。理由は、解禁がノエルや新年といった祝日と重なったため従事者の多くが不在であったからとか (そう、ここはヴァカンス大国) 、この度のワクチン接種は義務ではなく任意であるので、まず本人の意向を伺い、次に同意書にサインを求め、と段階的にしか進まず、至極簡単な事でさえ契約書がなければ一歩も進まないお国柄が影響したり、はたまた即席ワクチンに対する懸念であったりするのだろうけれど、真相はモヤモヤしていてよく分からない。

 

昼時に鳩時計のハトよろしく書斎から出てきたテレワーク中の夫は、昼食を待っている間、そんなメディアの報道に目尻をうんと吊り上げる。この遅延はフランスの恥だ!マクロン(大統領)は何をやってるんだ!彼の無能さにはほとほと呆れ果てる!スピードがのろ過ぎる!!と、ラジオ相手にわぁわぁ声を荒げてご立腹の体だ。フランスは個人の権利をとにかく尊厳する国だから、それがかえって裏目に出て、契約書のサインだなんだに時間を取られてるんでしょ?と私がのんびり意見すると、さっさとみんなとっ捕まえて片っ端からワクチン打ってしまえばいいんだ!と、目をむいて答える。夫が割烹着を着て、いや、白衣を着て、注射器をエイエイと振り回している図が頭に浮かんできて可笑しい。その辺りはほら、民主主義の極みのようなお国柄だから、そうはいかないでしょと返すと、吠えてはいけませんと怒られて仕方なく口をつぐんだブルドッグのように、悔しそうにウウウと唸っている。ミンシュシュギが水戸黄門の印籠のように効いた。まあまあ、そんなに怒りなさんな。食事の時くらい世間のことよりお皿の上に気を移して、心穏やかに、テレビやラジオはお暇させればいいのですよ。

 

夫とは反対に、実は私はワクチン接種が義務化されなかった事にホッと胸を撫で下ろしている一人だ。これには理由があり、ここでは敢えてそれを詳しく展開する気はないけれど、簡単に言えばワクチンの二時的な害をまともに受けてしまう体質の人が存在すると知っているからで、まさにそんなケースに該当する人が周囲にいるからだ。

 

ワクチン賛否の話題は、夫のみならず多くの知人友人に対してもなるべく私からは持ち上げないようにしている。賛成にしても反対にしても、これに関しては「信仰者」と呼べそうな熱を持っている人もいるので、下手に議論が白熱すると思わぬ非難を受けかねない。接種を受けたい人はそうした方がよい、理由があって受けたくない人は、違う対処法を取ればよい と個人的には思っているけれど、「君のような人が大勢いたらワクチンの意味がない!」と怒られかねない。まあ、それはごもっともであるけれど。東京の父がよく言うように、自分の身は自分で守るしかないと思うのだけれど。

 

先日会ったジャーナリストのソニアは、このウィルスの騒ぎもイスラム過激派のテロ騒動も、みんなその背後に実はお金が絡んでいるのよと秘密めいた表情で言っていた。別れ際だったのでそれ以上詳しいことを聞けなかったけれど、一体どういう意味だろう?

いつかアルテミシアという植物の話を耳にしたのを思い出す。マラリアの治療をはじめ、数々の病に対して薬効があるらしいけれど、フランスでは輸入が禁止されている。確かアフリカのどこの国だかで、この植物を使って地元民の救済活動に当たっている女性がラジオでインタビューに答えていた。彼女によると、その植物が先進国で禁止される理由はただ一つ。それによって経済的に困る輩があるからだと言う。果たして、嘘か真か。

 

ここのところ普段にも増して毎日のように耳にする「経済」って一体なんだろう?生活を円滑に営むために自分達が考え出したお金という発明品に、逆に私たちは、いつのまにか生活どころか魂まで乗っ取られてしまっているのだろうか。マネーゲームとはよく言ったものだけれど、ゲームに夢中になって本気になり過ぎてしまったのだろうか。回り出して止まらなくなったそのルーレットに、突然予期せぬ障害物が挟まったような今の世界だ。

先が見えない時こそ、絶好の転機なのだと言う人がいた。なるほどと頷いた。

あれこれ、考え時なんだなと思う。