Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Tonight tonight

元旦に買ったピンクの百合が、溢れるように開花して目を楽しませてくれる。

 

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香りもよい。

 

夜、息子とテレビの前のソファーに陣取って古典版 West side story を観た。

現在映画館でリニューアル版を上映しているので、それに合わせての私の提案。映画館に足を運んだ学校の友達と話題になるかも知れないし、そろそろシックな古典の一つも観せておいていいかなと思ってのこと。それに、実を言うと私もしっかり最後まで観た記憶が無かった。

 

コメディーミュージカルが苦手な夫も、この映画だけは別格のようで、電子タバコを吸いながらソファーにやって来た。水パイプにも似たその管楽器的な雑音が、スターウォーズに登場するダークヴェダの喘息気味な息遣いを思わせて、全くタイプの違う2つの映画が交錯しているようだった。

 

観賞後の感想。

ロメオとジュリエットを下敷に、「憎しみは憎しみを増幅し、ただ不幸を招くだけ。全てを救うのは愛である」というメッセージなのだろうけれど、別の見方をすると、あれは実は、まったく自覚のないコマッタちゃんファム・ファタルのお話なんだと思う。

 

無垢なマリアが頼まなかったら、トニーは血生臭い喧嘩に巻き込まれる事はなかったし、やっぱり彼女が頼まなかったら、アニータは敵陣に乗り込んで酷い目に遭うこともなかった。更に、チーノだって、恋に身を燃やすマリアが軽はずみにトニーの名を叫ばなければ、嫉妬と憎しみに駆られてトニーを撃つこともなかったはず。純真さも、度が過ぎると傍迷惑ということだろう。

エンディングにおいては、人は「痛み」によってのみ、やっと深い学びを得るのだろうと思わされた。

 

悲劇が嫌いな息子の反応は、「音楽は良かったけれど、ストーリーはあんまり」とのこと。コメディーミュージカルと呼ぶのだから当然だけれど、楽しいストーリーとハッピーエンドを期待していたらしい。古典版を気に入ったなら、衛生パスがワクチンパスに切り替わる前に、リニューアル版を観に映画館に連れて行こうかと思っていたけれど、どうやらその必要は無さそうだ。

それにしても、マリアとトニーが愛を囁き合うシーンでは、息子は近くに置いてあったクマのプーさんのぬいぐるみをやおら手に取り、照れ隠しにいじっている様子で可笑しかった。プーさんというところが、まだまだ幼稚で笑ってしまうけれど、それなりに年齢相応の態度を示すようになったものだ。

 

映画の後、台所で片付けをしている私を見て、夫が「なんだかマリア風だねえ」とからかう。肩より少し長い黒髪と、小柄なのと、声が高いのが一致していると言いたいのだろう。さにあればと、甲高い声で歌うフリ。そう言うあなたはチーノかトニーか?撃つか撃たれるか?と、ふざけて一瞬ウェストサイドストーリーごっこになった。夫は「俺はチーノ」とピストル撃つフリ。トニーではなくチーノを選ぶ辺りに、夫なりの慎ましやかさを見た。ではトニーはどこに?

 

 

 

昼間のラジオのニュースで、テニスプレイヤーのジョコビッチが試合のための旅行を前に、ワクチン接種の有無の非公開を押し通そうとして問題になっていると耳にした。彼らしい。やっぱりこの選手は一味違う。だから好きなのだ。気が合いそうだ。それにしても、今後の彼のキャリアは一体どうなるのだろう?心配になる。

 

夕飯の支度をしていた時、久々にキャロリーヌから電話があった。彼女は過ぎたる冬休み中にコロナに罹っていた。健康状態は心配ないけれど、家の拡大工事を巡って隣人と大いに揉めていると話す。そのストレスで体力が削がれ、隙を見たウィルスにやられてしまったようなもの。どこか遠く、都会ではないところに身の丈程の住処を持って、ひっそりシンプルな暮らしをしたい と言う。

その気持ちはよく分かる。私も、ウィルスが世に憚ってからというもの、都会への未練がすっかり薄くなった。いつか、気の合う友達同士で擬似家族のようなコミュニティーを作って、一緒に和気あいあいと田舎生活を送るのが、私たち仲間の夢だったりする。

 

パリは新年のお祭り気分もあっという間に去って、春までしばらく平坦なシーズンだ。