シンデレラというのは、専業ママンをモデルにしているのだと常々思う。
ただし、ママンが主役のこのお話には、冷たい継母や意地悪な姉上さま達や、救世主の魔法使いや王子様といった他の役者が存在しない。なぜなら、ママンが1人で何役をもこなしているからだ。そう、一人芝居。
ガラスの靴は、靴箱に仕舞いっぱなしで出番のないパンプスの象徴。もっとも、ペローの原作に登場するシンデレラの靴は洒落たガラスのハイヒール (chaussures en verre) などではなく、実は皮張りの室内履き (pantoufles en vair) だったと言うから、小道具はママンの普段履きのスリッパで十分事足りてしまうかも知れない。そしてこのお話の特徴の一つは、決して王様が登場しないこと。
ママンのシンデレラは、洋服棚の中から一番ぞんざいな、できるだけ汚れても構わない服をわざわざ選ぶ。これは本来ならばひねくれた継母の役目。
ママンのシンデレラは、少しでも時間が見つかると、あっちの床の汚れを拭き、こっちの棚の埃を払い、それでも事足りずに冷蔵庫の中の隅々まで掃除してみたりする。意地悪な姉上さま達に代わって自ら指し図する訳だ。
ママンのシンデレラは、夜に楽しいお出かけプランがあっても、自分は行けないと悲しく首を振って諦める。髪はボサボサ、ひどい格好をしているし、だいたい家の仕事が終わらない。
たまに時間を盗むようにして出かけてみても、子供のご飯の時間までに帰らねばならず、腕時計を見い見いあっという間にタイムリミット。慌てて階段を駆け降りて、けたたましくベルの鳴るメトロにギリギリで飛び乗る。慣れないハイヒールなど履いてこようものなら、靴擦れを起こして後悔する。
滑り込みセーフで家に着き、一息つく暇もなくお姫様の衣装を脱ぎ捨てて、差し出してくれる王子様を探すのも面倒なので、自分でいつものスリッパに足を滑り込ませてホッとする。すっかり元の姿に戻って何喰わない様子で台所でカボチャスープをぐつぐつ煮たら、仕上げに魔法のスパイスを一振り効かせ、熱々のそれをお腹を空かせたかわいい坊やに食べさせるのだ。
そして、そんなバタバタの間中、一家の王様はいつだってずーっと不在なのだ。
そんな事をふと思ったのは、ずっと以前から持っているのにほとんど履いたことのない白いスカートを今日は思い切って履いてみたから。タンスの肥やしというのは正にこの事。汚れが一番目立つ白い服は、半分台所で暮らしているような私にとっては至極贅沢だ。
ワンマンショーは忙しい。
たまには違う役も演じなくちゃ!