Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Salade piémontaise

夫の料理

 

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毎日違うものが食べたい夫。

違う国の、違う風味、違った材料に違った香りを日々求める。お皿の上の風景は、フランスからベトナム、北欧、インド、イタリア、日本、中国、カリブ海と忙しく世界中を飛び回る。レストランでテイクアウトを注文したり、暇があればネットでレシピを検索し、週末に自分で作ることもある。それとは逆に私は、どこの国の料理とも言い難い我流の無国籍料理に徹底し、不動のシンプルスタイル(?)を確立して相方との釣り合いを取っている。幸か不幸か、至極コントラストの効いた夫婦だ。

 

さて、過ぎたる週末は、そんな夫がピエモンテサラダ (Salade Piémontaise) なるものを大量に作った。名前を聞いてどんなイタリアンな一品かと期待していると、いわゆる諸民的なポテトサラダで、ジャガイモ、トマト、厚切りのハム、ピクルスを賽の目に切り、クリームベースのドレッシングで和えたものがお出ましした。

ポテトの茹で具合がちょうどよく、美味しいけれど、一体どこがイタリア風なのか?赤白緑のトリコロールだからかな?それとも、トマトが入っているから?と尋ねると、本人も首を傾げる。ポケットから携帯を取り出し、ネットで調べて苦笑しながら言うには、実はイタリアとは何の縁もゆかりも無いそうだ。どちらかと言うとロシア料理に近いそうで、どういった星回りでピエモンテと名付けられたのかは謎。とにもかくにも、フランスではその名で広く知られているらしい。

 

こういう、世の中の案外いい加減なところが、実は私は結構好きだ。真面目に生きなくても大丈夫ですよ というメッセージのような気がする。世の中は勘違いと間違いと当てずっぽうだらけなのだから、あなただってそのままでよいのです と。なんだか楽しくなってくる。

 

インドから遠く離れたアメリカの原住民が、相変わらずインディアンと呼ばれていたり、カステラという長崎の美味しいお菓子が伝え残っていたり、チコリという野菜は実はチコリでなかったり、日本では洋食と呼ばれる、しかし本番ヨーロッパではどこを探しても見当たらない、西洋風のお料理が存在したり。なんだか楽しくなってきてしまうのだ。

 

あれは3月だっただろうか。ボンマルシェに近い賑やかな裏通りを歩いていて、ヘルシーフードのレストランを見かけた。昼食をテイクアウトしてみることにした。

愛想の良い店長は親日家のムッシューで、過去にはトーキョーに長期滞在した経験もあると懐かしそうに話す。黒板にチョークで書かれたメニューを見ると、Shiatsu という一品に目が留まった。どんなお料理なのかと尋ねると、あれっ?という顔をして、ほら、あのシアツですよ?ご存知ありませんか?スープですよ。キュイジーヌ・ジャポネーズですよ!と仰る。はてな?と思ったけれど、シアツというのは指を使ったマッサージのことではないですか?などと野暮な指摘はせず、それは私の知らないキュイジーヌ・ジャポネーズなので、そのシアツを一杯ください と頼んでスープカップに熱々をよそってもらった。本当は訂正してあげる方が親切だったかも知れないけれど、シアツでいいじゃない、面白くていいじゃない!と思った。

話が弾んだついでに、ムッシューはカウンターの上のピッチャーに入っていたフレッシュジュースを一杯サービスしてくれた。グリーンの野菜ジュースかと思ったら、搾りたてのオレンジジュースに matcha を混ぜたのだと仰る。意外に美味しかった。

フランスでは、日本人である為に得をすることが時々ある。自分で選んだ訳ではないけれど、そんな時、日本に生まれてよかった とつくづく思う。

 

夫のポテトサラダ、いや、ピエモンテサラダは、うっかり写真を撮り忘れた。

翌日になっても、冷蔵庫に付け合わせのクリームソースだけが小鉢にたっぷり残っている。こういった余り物を転換するのは私の役目と勝手が決まっている。マッシュポテトに薄切りきゅうりと玉ねぎとコーンを入れて、日本でお馴染みのポテトサラダでも作ってみようかしら。モンフジサラダ (Salade Mont Fuji) と名付けて。